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第113話 呻き声

 呻き声に目が覚めて、隣を見るとぼんやりと人の顔が映る。

 あれ、なんで人が……

 眠い頭で考えて、私は昨夜、彼の部屋で一緒に寝たのを思い出す。

 セミダブルのベッドはふたりで寝るには少し狭い。なので必然的にくっついて寝ることになってしまったんだけど、目の前に顔があると正直驚いてしまう。

 しかも湊はぎゅうっと私の身体を抱きしめていて身動きが取れない。


「ん……ん……」


 って呻っているし、大丈夫かな、これ。何か嫌な夢でも見てるのかな。

 暗いのでよくわからないけど、顔が歪んでいるようにも見える。

 怖い夢でも見ているのだろうか。

 心配だけど寝てるしな……声をかけていいのかな、むしろ起こしたほうがいいのか。さすがにこんな経験ないしどうしたらいいのかわからない。


「い、あぁ……」


 呻いてそして、私の身体を力を込めて抱きしめてくるものだから、私は思わず声を上げた。


「ちょ……だ、大丈夫?」


 そう声をかけると、彼はばっと目を見開きそして、私の顔を見つめた。


「あ……灯里、ちゃん……」


 ほっとした様な声で言い、大きく息をつく。


「大丈夫?」


「……大丈夫、かな……うん、大丈夫」


 そう答えて彼は小さく笑う。

 これはあまり大丈夫な感じじゃないんだろうな、って思うけど突っ込んでいいのかわからない。


「えーと、何か夢でも見たの?」


 言いながら私は彼の頬に触れる。

 すると湊は目を閉じそして、呻くように言った。


「う、ん……見たんだと思うけど、あんまり覚えてない。ただ……怖かったな」


 そして彼は目を開けてじっと私の顔を見る。


「怖かった?」


「うん、怖かった。それだけは覚えてる。でもよかった。目が覚めたらいたのは灯里だったから」


 そう安心したように言い、彼は私の身体を抱きしめる腕に力を込める。

 やっぱり記事の事、気にしているんだろうか。

 報道内容は見ないようにしているけど、彼は何が報道されているか、タイトルから予想できちゃうだろうしな。あの雑誌には怒りしか感じない。


「だい、じょうぶだから」


 そんな月並みな言葉しか言えないのがちょっと悔しい。

 それでも湊は嬉しそうに笑い、顔を近づけてきて唇を重ねてきた。

 触れるだけのキスの後、火がついたのかそのまま唇を滑らせて首へと顔を埋めてくる。

 そしてそこをペロリと舐めところで私は声を上げた。


「ちょ……湊?」


 戸惑いの声を出すと、湊は余裕のない声で答える。


「したい」


 何を、なんていうのは無粋だろうか。短くてわかりやすい言葉に私は恥ずかしさを覚えつつ、でも拒絶する気もなくて、されるがままになり覆いかぶさる彼の顔を見つめた。


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