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第十六夜 塗壁(その二)

●第十六夜 塗壁(その二)

 霊体であった塗壁ぬりかべを朱雀の炎で斬り付けた芦屋結衣あしや・ゆい

 新田周平あらた・しゅうへいの貼った五芒星の結界の中で、塗壁は霊体から半霊体、そして実体へと姿を変える。

「視えたな……塗壁、覚悟して貰う!」

 スマートフォンを構えた新田は、その先にあるストラップに力を注ぐ。

 それは石灯籠の式神、古籠火……明かりに火を灯すと、そこから炎を吹き出す。

「新田、私も続くよ!」

 そう結衣は新田に続けと、再び炎の剣を振り上げる。

「古籠火、焼けっ!」

「行くよ、炎の剣っ!!」

 右と左に分れ、二種類の炎で攻撃する新田と結衣。だが塗壁にダメージが入った様子はない。

「流石は塗壁だ……硬さはあやかしのなかでも一番だな」

「褒めている場合じゃないよ、どうするの!?」

 結衣が朱雀の翼を広げ回り込もうとしても、塗壁の能力で何処までも壁が続く。

『どうした、陰陽師よ……儂は一歩も動いておらんぞ』

 頭上から声が降って来る。結衣はムーっとした顔をしながら新田に助けを求めた。

「何とかならない、弱点とかないの?」

「確か……塗壁は足元を払うのが弱点の筈だ」

 そう言う情報を待っていた! そう叫ぶと、結衣は炎の剣を伸ばし塗壁の足元を薙ぎ払う。

 すると塗壁の背丈が少し小さくなった気がした。

「うん、効果あり! このまま行くよーっ!!」

 結衣はそう楽しそうに炎の剣を薙ぎ払い、どんどんと塗壁が小さくなっていく。

「おぉー、流石は結衣だ」

 歓声の声を上げる新田の前で、塗壁は五メートルぐらいのサイズになる。

「よくもやってくれたな!」

 塗壁の声も先程までとは違い、近くから聞こえる。

「塗壁……もうそのサイズでは霊脈は遮ることは出来ないだろ。もう福岡に帰るんだ」

 福岡は塗壁の出身地……故郷に帰れと新田は告げる。

「天海僧正のため、邪魔することは許さん!」

 新田の最後の呼びかけに塗壁はそう告げると、二人に向けて倒れ込んで来る。

「結衣!」

「任せてっ!」

 圧し潰されそうになる新田の肩を、結衣が掴んで空中を飛ぶ。

 塗壁は再び起き上がると、再度圧し潰すを繰り返した。


 何度も倒れ込む塗壁を交わしながら、新田を吊るし結衣は飛ぶ。

 だが両腕から伝わる新田の重みに、結衣は不満の声を上げた。

「っとと!? 重い新田、ダイエットして!!」

「生きて帰れたらな!」

 翼とばたばたと羽撃たかせつつ、ふらふらと飛びながら文句を言う結衣に、新田は生きて帰れたらなと返事をする。

「鳥のように交わしおって……!」

 塗壁は顔を真っ赤にしながら、まるでドミノが倒れるように追って来る。

「得意の八卦でなんとかならないの?」

「塗壁は五行が不明なんだ……!」

 新田の背にしている鞄の中には、陰陽師で使う式盤が仕舞われている。

全てのモノには森羅万象を構成する木、火、土、金、水の五行が割り振られているのだが、塗壁は情報が少なくそれが判明していない。

 だから有効な攻撃手段が出せない……そう新田は叫ぶと、とりあえずと後ろ手にスマートフォンを向け、ストラップとなっている式神、古籠火から炎を吐きださせる。

「熱っ! だが熱くないっ!」

 謎の叫び声を上げながら塗壁は結衣たちに迫る。だが結衣はそろそろ限界なのか、プルプルと腕を振るわせる。

「あ、新田……もう、限界!」

「いいぞ、結衣。放せ!」

 新田は結衣にそう告げると、彼女は限界と掴んでいた手を離す。

「白虎の牙よ、炎の虎となれ!」

 落下しながら、新田は彼の家に伝わる呪具『白虎の牙』と古籠火を組み合わせ、炎の白虎を生み出す。

 そして空中でその背に飛び乗ると、白虎は地を蹴り走り出す。

「それ、走れ白虎! 追いつかれるな!」

「朱雀の翼よ、自由に舞えっ!」

 地を駆ける白虎と空を舞う朱雀。塗壁は必死になって追うが新田と結衣はそう簡単に捕まらない。

「新田、逃げるばかりじゃ勝てないよ?」

 空中から結衣が新田に声を掛ける。確かに、逃げるばかりでは勝てるものも勝てなくなる。

「そうだな……そろそろ反撃に移るか」

「でもどうするの? こっちの攻撃が効かないよ」

 塗壁は堅い。結衣の炎の剣でも霊体化は解除させられたが、ダメージ自体は与えられていない。

 弱点を突いて小さくすることには成功したが、今のドミノ倒しの攻撃では足元に攻撃を集中させることも難しい。

「なに、俺に策がある……!」

 そう自信あり気に告げる新田は、鞄から式盤を取り出した。


 炎の白虎の背に乗りながら、式盤を取り出す新田。そして満を持して術を唱える。

「河川敷の樹木よ、江戸川の水を吸い育て!」

 水を吸って木が育つ、すなわちそれ相生なり。

 みるみると河川敷の樹木が大きく育ち、芽吹き花を咲かせる。

「育った樹木よ、燃え上がり火を栄えろ!」

 木を燃やして火は栄える、すなわちそれ相生なり。

 育った樹木が火に包まれ、一面の火炎畑に変わる。

「熱い……」

 地獄のように燃え盛るその熱気は、上空にいる結衣にも届く。

 その炎のなか、滝のような汗を掻きながら新田は塗壁に向かい告げる。

「五行のどれか分からないのなら……俺たちが得意とする炎で攻めるだけだ! ここからは我慢比べだ、塗壁!!」

 そして彼は告げる。火が重なれば炎となる、それ比和なりと。

「結衣! 相乗効果でお前の炎の剣の威力も上がっている! ぶちかますぞ!!」

「わかった! それじゃ、いくよっ!!」

 朱雀の翼を広げ、結衣が炎の剣を両手で持ち塗壁へと斬りかかる。

 その一撃は、確かに先程までとは違いしっかりと塗壁の巨体を捉えた。

「うん、手応えがある。斬れるよ、新田!」

「よし……こっちも行くぞ、古籠火、白虎!」

 結衣の様子に満足した新田も、古籠火を手にすると白虎に乗り塗壁へと駆ける。

 結界内が火の属性となったことで、威力が上がった新田の火炎放射と結衣の炎の剣。

 塗壁も耐えようとするが堪えきれず、霊力を消耗しどんどんと小さくなっていく。

 このまま行けば塗壁を倒すことが出来る……二人がそう思った時だ。結界を破り侵入者が現れたのは。

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