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第十八夜 石蛇女

第十八夜 石蛇女(その一)

●第十八夜 石蛇女(その一)

 お台場の高層マンション最上階……窓のない一室で、石蛇女メデューサは九尾の狐のあやかし、妲己により、『千紙屋せんがみや』の新田 周平あらた・しゅうへい芦屋 結衣あしや・ゆいを倒すための力を与えられていた。

「お主の権能は石化……ならば、その力を限界まで高めよう。その両目で視た者すべてを石にする力。それを凶化する」

 妲己の手が、石蛇女の瞼に触れる。そして九尾の尾を展開した彼女により、莫大な妖力がその両目に流し込まれる。

「(この力で、烏天狗の復讐をするんだ……!)」

 流される膨大な妖力に、石蛇女は復讐心で耐えながら涙を流す。

 落ちる雫の一滴一滴が彼女の怒り、悲しみ、苦しみ、怨み……許さないと言う気持ちが、凶化術に耐える力となる。

「ほう……まだ行けるか、ならば極限まで凶化しよう。全てを、新田周平と芦屋結衣を石にするが良い!」

 喜びながら妲己は術を振るう……そして、復讐の鬼が完成した。


 東京、秋葉原。ここにはこの東京に密かに住まうあやかしに対し、その能力を担保に融資や保証を与える店『千紙屋』があった。

 その店の従業員、兼、陰陽師見習いである新田周平は、同じアパートに住む蛇女と人間の二重人格のあやかし、蛇迫 白じゃさこ・しろに仕事終わりのデートに誘われ、ウキウキの足取りで駅前にあるアキヨドカメラのパソコンコーナーへと向かう。

「お待たせしました、白さん」

「いいえ、こちらも今来たところです」

 蛇迫白は人間の人格。もう一つの人格である蛇女でヴァーチャルユーチューバーの白蛇朔夜しろへび・さくやは、今日は出てこない。

 普段であれば新田の身体に眠る膨大な霊力を狙い、事あるごとに絡んで来るのだが……調子が悪いのか、新田は白に問いかける。

「朔夜様はどうされたんですか? 何時もなら霊力を寄こせー、と出て来るのに」

「えぇと……実は、今日は邪魔したら新しい立ち絵を頼まない、と脅してみたところ、効果覿面だったみたいで」

 あ、拗ねているのが分かりますと白は朔夜の様子を新田へ伝える。

「そうでしたか……でも新立ち絵、早く見て見たいですね」

「ふふっ、お披露目はまだ先ですが……新田さんになら先行公開しても良いですよ?」

 そう笑いながらアキヨドカメラを出て、食事を取りながら談笑するため秋葉原のファミリーレストラン『プリンスホスト』へと向かおうとした二人。

 だが、秋葉原駅の屋上で何かが光ったと思うと、新田と白の二人は石に変わる。

「まず、一人……!」

 光の発信源……そこに居たのは、石蛇女であった。

 彼女は両の眼を開いて、秋葉原中の歩いていた人間を新田たち諸共石に変えたのだ。

「あとは朱雀の女ね……さて、秋葉原にはいないようだけど、何処に行ったのかしら……?」

 屋上から屋上へと飛び移り、移動する石蛇女。

 アキヨドカメラの前では石にされた新田の前で、白の身体から脱皮をするように下半身が白蛇の白蛇朔夜が現れる。

「白は石にされたが、わらわが眠っていて助かった……だがシューヘーをこのままにはしておけまい」

 白蛇の尻尾で新田を抱えると、朔夜は浅草橋の傍にあるアパートを目指す。

 新田と同居している、彼の相棒である芦屋結衣と接触するためだ。

「何とか石化を解除する方法を知っておれば良いが……」

 ズルズルと音を立てながら、朔夜は神田川に沿って進む。


 一方、千紙屋のオフィスでは、社長の平将門たいらのまさかどが幾つもの仮想ディスプレイを周囲に浮かべ、対処に追われていた。

「まさか……秋葉原中の人間を石にするだなんて」

 ネットに上がる画像を検閲し、SNSへの書き込みを妨害し、防犯カメラの映像を書き換えし、電脳神としての権能をフルに活躍させる将門。

 だがそれでも街一つの情報隠蔽をするには処理能力が足りなくなってきたのか、神に救援を祈ることにする。

思金神オモイカネにアクセス、サーバ処理の半分を移譲」

 知識の神、思金神……将門の要請に、智の神は応える。

 これで将門の負担は半分になる……そして気が付く。防犯カメラの一角に、石になった新田を背負う朔夜の姿を。

「っ! 新田君まで石に……!? あの方向は彼のアパート……せめてこちらに連れて来てくれれば」

 秋葉原の情報を隠匿するため、将門はこの場を離れることが出来ない。

 そうしている間にも新田を抱えた朔夜は、秋葉原の街を出てしまう。

「……あとは結衣君に任せるしかありませんね。何とかなると良いのですが」

 将門は浅草橋のアパートに居るだろう結衣に全てを託す。

 今の将門に出来ることは、結衣のスマートフォンに状況を連絡することであった。


 浅草橋駅傍、神田川沿いのアパートの一室では、結衣が不機嫌顔でスパゲティを茹でていた。

「なーにが、今日はデートだから夕食は一人で食べてくれ、だ!」

「結衣にゃん、さっきからそればっかにゃ……」

 そう繰り返し文句を言いながら、トングで寸胴の中で茹でられるスパゲティを解している結衣に、同じアパートに住む猫娘のあやかし、猫野目 そらねこのめ・そらはため息を漏らす。

「そんなに不貞腐れるだなんて、結衣にゃんは本当にご主人様が大好きなんだにゃー」

「す、好きって、そんなんじゃないし!!」

 分かりやすい反応に、そらがニマニマッと笑みを浮かべた時だ、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

「はいはーい、ちょっと待ってねー……そらちゃん、お鍋見て置いてくれる?」

「はいにゃ!」

 そう返事をしたそらとお鍋の番を交代し、エプロン姿の結衣はインターフォンへと向かう。

「どちらさまですかー……って、新田!?」

 受話器を上げ、モニターを確認する結衣だが、画面に映るその姿に慌てて玄関へと向かうと鍵を開ける。

「新田っ!」

「わらわの心配はしないのか……兎も角、入らせて貰うぞ」

 そう言って新田を背負った朔夜は、ズルズルと尻尾を引き摺りながら結衣たちのアパートの部屋へと入っていくのであった。

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