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第十八夜 石蛇女(その三)

●第十八夜 石蛇女(その三)

 秋葉原の人々を石に変え、東京全体をも石化しようと企む石蛇女メデューサと、東京を護る四神の一柱、朱雀の巫女であり、あやかしが起こす問題を解決する『千神屋』の陰陽師見習いである芦屋結衣あしや・ゆい

 二人は白蛇のあやかしである白蛇朔夜しろへび・さくやと猫又のあやかしである猫野目そらねこのめ・そらが見守るなか、激しい殴り合いを繰り広げていた。

「いい加減……倒れなさいよ!」

「誰が……倒れるかっ!!」

 石蛇女の拳が結衣の顔面を打つ。だが鍛えられた首でその一撃を耐えると、結衣は反撃の右ストレートを石蛇女へと向け叩き込む。

 その光景を祈るように見守る朔夜とそらであったが、だが決着は殴り合いでは終わらないことに気付く。

「猫よ、なんとか唐傘を取り戻せまいか? このままでは決着が付かぬどころか、石蛇女の命を奪わねば秋葉原の石化は解けぬのにそれも出来ぬ!」

「そ、そうだにゃ! にゃんとかやってみるにゃ!!」

 そう、秋葉原の人々の石化は石蛇女の命を奪わねば解除されぬ……だがこのまま殴り合いを続けても、ダウンは取れるかも知れないが命までは奪えない。

 いや……撲殺と言う手もあるにはあるが、素手での格闘では時間が掛かるし、手間も掛かる。

 それよりも、石蛇女の頭の蛇に絡めとられた結衣の式神、唐傘お化けは霊力を流すことで剣にもなる。

 それで攻撃した方が、確実に命を奪えるとの朔夜の算段であった。

「いくにゃ! 猫式百連爪!!」

 あにゃにゃにゃ! とそらは声を上げ、石蛇女へと鋭く伸ばした両手の爪で斬りかかる。

 だが石蛇女の頭の蛇は、斬られた傍から新しく生まれ、なかなか唐傘まで辿り着けない。

 それでも藻掻きながら泳ぐ猫のように、そらは少しずつ唐傘へと近づき……遂にその手に掴んだ。

「結衣にゃん、これを!」

「そらちゃん!? ……唐傘っ! 行くよ、炎月斬!」

 投げられた唐傘お化けを受け取った結衣は、刀身に炎の霊力を纏わせると三日月を描くように斬撃を放つ。

 結衣と石蛇女を結んでいた石蛇女の頭の蛇がザックリと斬られ、二人は距離を取る。

「お前は……邪魔だっ!」

「うにゃぁぁっ!?」

 石蛇女の頭で蛇の群れの海を泳いでいたそらを蛇たちは捕まえると、グルングルンと振り回し勢いよく投げ捨てる。

「そらちゃん!」

「大丈夫、受け止めたで」

 よくも邪魔をしてくれたと投げられたそらだが、朔夜が胴を伸ばして受け止める。

 ホッとため息を漏らした結衣は、気を引き締め直すと唐傘を構えながら石蛇女の方を向く。

「殴り合いは飽きたわよね? これで今度こそ斬り裂いてあげる」

「そう……こっちこそ、あんたを石にしてあげるわ」

 結衣の挑発に、頭の蛇たちを揺らして答える石蛇女。

 ジリジリと距離を詰め……二人は同時に踏み込んだ。


 リーチの問題から、先に手を出したのは石蛇女であった。

 頭の蛇を伸ばし、結衣の全身を絡め取ろうとする。

 だが……結衣はそれに反応してみせた。

「一度見せた技が、もう一度通用するとは思わないでよね! 炎月斬!!」

 蛇に絡めとられようとした瞬間……結衣の手にある唐傘に炎が宿る。

 再び月を描くかのように刃が振るわれ、迫った蛇の群れをまとめて斬り落とす。

「今度はこっちの番だよ……炎槍撃!」

 そして結衣は一度引いたかと思うと、腰だめに唐傘を構え、炎の槍にすると石蛇女の心臓目掛けて鋭い突きを放つ。

「そう、簡単に……殺されてあげない!」

 石蛇女は再生した頭の蛇で盾を作ると、結衣の突進攻撃をギリギリのところで防ぐ。そのまま唐傘を掴むと、這いよるように結衣に迫る石蛇女。

「その眼鏡さえなければ……石化は防げまい!」

 グッ、グッっと結衣は槍と化した唐傘を引き抜こうとするが、がっしりと固定されたかのように動かない。

 そうしている間に石蛇女は結衣に迫ると、鏡面加工をした眼鏡を奪おうと手を伸ばす。

「結衣にゃん!」

 しかし、その手を斬り裂く刃が疾風のように走る……そらの猫式百連爪が石蛇女の腕と頭の蛇を斬り刻んだのだ。

「結衣、もう一度狙え!」

 同時に朔夜の白蛇の巨体が石蛇女の胴体を締め上げ、結衣から引き剥がすとその動きを止める。

「ありがとう二人とも! ……石蛇女、これで止めだ! 炎槍撃!!」

結衣の手にした唐傘が、再び炎の槍に姿を変える。そして蜷局を巻く朔夜の白蛇の胴の隙間にある石蛇女の胸部へと向け、突きが放たれた。


 心臓を狙った渾身の一撃。外しようがない状態で放たれたはずのその一撃は、確かに石蛇女の胸を突いた。

 しかし……炎の槍を手にした結衣は、驚愕の声を上げる。

「刃が……刺さらない!?」

 く、くくくっと笑みを浮かべる石蛇女。彼女はその身を締め上げていた朔夜の身体を引き剥がすと、槍を払い、そして上着を破る。

「どう、驚いたでしょ……心臓や肺と言った臓器以外、胸部は全部石化してあるのよ!」

 露わになった胸元……そこに広がっていたのは、まるで石造りの彫刻のような胸。

 その周囲も石になっており、生半可な一撃では貫けそうになかった。

「自身を石化するだなんて……自分が惜しくないの?」

「芦屋結衣、あなたに勝てるなら、私の命なんて安いものよ!」

 既に怨みの相手の一人、新田周平は石にしたことを確認している。

 そして新田以外に石化を解除出来る人間は居ないことも、烏天狗と行動した際に見ていた。

 故に、結衣さえ倒せば怨念を晴らすことが出来るのだ。であれば、結衣が得意な剣撃と言った攻撃を通さないようにすれば良いだけ。

 幸い、石の身体は胴体や胸部の厚みもあり、かなりの硬度があった。

「くっ……もう一度!」

「何度でもおいで……!」

 結衣は炎で出来た槍先を何度も石蛇女の胸元に突き立てるが、欠けはするものの矛先は通らず全て弾かれてしまう。

「そうね……芦屋結衣、あなたを倒すためなら、命なんて要らないわ!」

 石蛇女はそう言うと、ズボンのポケットからコンパクトを取り出した。

「バカ、止めなさい!」

 意図を察した結衣が叫ぶが、石蛇女はそれを聞かずコンパクトを開く。

 そして自分自身に向け、閉じていた両目を開くのであった。

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