秋、呆れるほどに高い空。
雲一つなく澄み渡っている。
名を
王の直接の兄弟姉妹には当たらないが、それでも玄の姓氏を冠りしている。
末端とはいえ王族を送り込んできたのは中々重い。
他にもどっさり送られて来た諸官をどう扱うかを、現在
受け入れ態勢はまだ万全ではない。
それぞれが対応する役所ごとに案内役を立てることだけは決まっている。
あとは臨機応変に、と言うは
一方、虹霓国よりの使節団は予定通り、
こちらは王族ではないが、それに
釣り合いは取れると踏んだ。
そも、虹霓国は王族が少な過ぎるのが難だ。
低年齢での出産は身体への負担が酷いため、摂政を始め官たちはまだ焦りはしていないが、王配をどうするのかという問題は常に鼻先にぶら下がっている。
王家に比肩する六家当主。
その次期当主らを次々副官として派遣する案は廃された。
結局婿がねの中で
だが、まだ結論は出ていない。
さて、閑話休題。
神祇官の
神祇伯
神祇官からは十人が派遣される。
そして陰陽寮からは
陰陽師朱鷺
五雲国からの使節の中に刺客が隠れていないとも限らない。
直接的に刃を向けては来ないだろうが、呪詛の類いは近ければ近い程に効き目が強くなるのは周知の事実だ。
榠樝は
「しかし、五雲国の呪詛となるとどういうものになるのか。虹霓国とは似て非なるものなのだろう?夢渡の法は仕組みがわからんと陰陽頭も言っていたが」
賢木は肩を竦める。
「仕組みがわからなくても、向けられる悪意や害意はわかるから。それを止めるなり返すなりはできるよ」
「そういうものか」
「そういうもの。例えば……、やめた。説明が面倒くさい」
途中で止める賢木に榠樝が苦笑して突っ込む。
「面倒臭いって何だ」
堅香子が聞いていたら扇が飛んで来るところだ。
「言い方を間違えた。女東宮にわかるように説明するのはとても難しい。でも、僕がちゃんと守るから。そこは信じて」
「信じているよ」
頷く榠樝に
「信じられない者を傍には置かない」
万寿麿がにゃあと鳴く。
「おう、よしよし。お前のことも信じているよ、万寿」
腹を撫でて、榠樝は目を細める。
「そなたたちには随分助けられているからな」
「まあ、でも」
賢木は意地悪く口を歪めた。
「五雲国の連中、こちらの神威に心底から怯えてるみたいだし、目立つようなことはしなさそうだと、僕は読むね」
榠樝は首を捻った。
「そんなに神威らしき事象はあったか?」
「内裏でもしょっちゅうあるでしょ、怪異。どこそこで鐘が鳴ったの、
何度か目を瞬くと、榠樝はまた首を傾げる。
「子供が泣くくらいではないのか、それ」
雷が落ちれば確かに怖いが、そこまで怯えるものだろうか。
榠樝は少し考えた。怯えるか。鳴神だものな。そうか。
「お化けが怖いの水準で、赤子と同じ程度だと見た。僕らの普通はあいつらの異常だよ。聞いたところによると、五雲国の都はまるで神威の欠片も見られないらしい。雨乞いで雨が降るのすら、奴らにとっては泣くほどのことらしいよ」
「はー」
所変われば品変わる。土地が違えば風俗、習慣なども違って当然。
国が違うのだ。感覚の差は当たり前だろう。
「見せてもいい祭祀はどんどん見せ付けてみるか。案外恐れ入ってくれるやもしれん」
「
「よし。摂政に
「良いと思う」
「流石に
榠樝は少し黙った。
「ただの宴会になるかな」
「そうかもね。でも五節の舞が素晴らしければ、天恵があるかも」
「今年は舞姫選びを特に念入りに、丁寧に行うようにしようか」
「他の行事も大晦日まで目白押しだしね」
「そうだな」
榠樝は遠い眼をしてどこかあらぬ方を見詰めた。
今年も
大嘗祭は王が即位して最初の新嘗祭のことをいう。
新嘗祭は虹霓国の王の行う祭祀の中で、最も大切なものとされる。
簡単に述べるなら、その年の新穀を
同日に各地の神社でも同じ祭祀が行われる。
祭祀の姿は
他の祭祀は少しずつ形を変え、今に伝えられたものも多いが、新嘗祭は違う。
何から何まで先祖伝来の形にこだわり、後の世にまで伝えなければならないものだ。
天の羽衣と呼ばれる衣を身に付け
戦勝祈願の祭祀の時も同じように真白の装束であったが、新嘗祭は更に規定が細かい。
さて置き、榠樝が王に即位するのはいつになるのだろう。
女東宮のまま、王が行うべき祭祀を執り行うのは
慣れてどうする。
己で混ぜ返して。榠樝は深く溜め息を吐いた。