それからしばらく飛び、一度休もうとアサリナの提案で箒は速度と高度を落とす。近くに休憩できそうな町があるとのこと。アサリナも何度か来ているため、快く受け入れてくれるらしく、疲れたアオは勝手にしてくれと言う。
ゆらゆらと、箒が下りたのは柵に囲まれた村の入り口。看板があるが、なにが書いているのかアオには読めない。
朝を過ぎた村は、人は少ないが活発で、今この時間は何人か行商人がやって来ている時間らしい。
物を買って売って、村の中心の広場はなかなかの活気具合だ。
その中の一人がアサリナに気づいたらしく、遠くから手を振ってくれた。
「おはよーう!」
アオが両手で大きく振り返す。
「食堂あるから、そこで休もっか」
頷いたアオは、なるべく目立たないよう半歩下がる。
「アサリナさん!」
「久しぶりー!」
そんな中、何人かの村人がアサリナ達の下へ駆けよって来る。
みんながみんな、アサリナを歓迎するような表情だった。
「久しぶりー」
「また魔法見せてよ!」
「後でねー」
子供達もアサリナに会えたのが嬉しいらしく飛び跳ねていた。
この様子だけ見ていると、魔法使いと良好な関係を築けていない場所なんてあるのだろうかと疑問に感じる。
「そちらは――」
「仲間だよ。今は二人でしゅぎょーの旅をしてるんだー。ここには、休憩のために寄ったって感じ」
「そうなんですか。それならぜひ、食堂にいらっしゃってください、丁度これから開けるところですので」
アサリナと話しているのは、人のよさそうな中年の男だった。どうやら、この男がこの村にある食堂をやっているらしい。世話になるため、アオは会釈をする。
「姉ちゃんも魔法使いなの?」
一人の少年が、アオのローブを引っ張る。
無邪気で純粋な眼差しにアオは嫌な気持ちはしない。
「まあ、一応……」
「どんな魔法使えるの!」
「えぇ……」
一応魔法使いだが、使える魔法なんて無いし、今は魔力を封じているため、魔法を使うことはできない。
しかし、子供の純粋な眼差しを受けている手前、無理だと断ることはできない。仕方なく、アオは集中力を高め、自らの姿を消してみた。
「うわあ! すげえ‼」
少年の周りもどよめく。
魔法を使えない者からすれば、仙術も魔法も同じに見えるのだ。
しかし、一度見せてしまえば更に要求されるものである。他にも見せてと言われ、困ったアオをアサリナが助ける。
「はいはーい。また後で見せたげるから今はおしまーい。よっし、じゃー食堂に行こっか」
半ば強引だが、子供相手にはこれぐらいしなければならないのだろう。アサリナに押されながら、アオは村の中に入っていく。
村人だけでなく、行商人共に顔見知りらしいアサリナ。ひっきりなしに声をかけられていた。
「顔広いね」
「まあねー」
アオの言葉に、誇らしげなアサリナである。