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第77話

「ねえ団長、本当にその作戦で大丈夫なの?」


 丁度人の行き来が活発になっている時間帯。団長と呼ばれた青年――モルフが答える。


「タステ、だっけかあ? 探すならあそこからだろうし、アオもあそこに逃げた可能性が高い」

「そうだけど……」


 あの日の夜、モルフの語った計画は単純なものだった。


 モルフを含む、四人でタステへと向かおうということだ。そして、残りの団員達で山を隅から隅まで探すというもの。


 タステへは、途中にある町を中継すれば二日程で辿り着くことができる。アオがタステへ向かったのなら、今頃はもう着いているかもしれない。


 浮かない顔をしている少年――シャオにモルフが言う。


「タステ出身のシャオには、来てほしいけどなあ……無理にとは言わねえよ」


 シャオはタステで生まれ育った、そしてある日突然――この山に捨てられたのだ。当然、捨てられたのだから、あまりいい思いはしないだろう。来てくれるのなら、土地勘もあるだろうし助かるが、嫌ならそれはそれでいい。


「いや、行くのは行くよ。おれが言いたいのは、その作戦でアオは見つかるのかってこと」


 タステはモルフの想像している以上に大きな街だ。そして人も多い。そんな場所に四人だけで向かって、アオを見つけることができるのかどうかが分からない。


「そのためにシャオをメンバーにいれたんだ」


 そう言われるとあまり言い返すことはできない。


「そうだけど……」

「まっ、とりあえず探しに行こうじゃねえの。いなかったらいなかったで戻るさ」


 捜すのなら、早く動くのが得策だろう。


 一見ふざけているように聞こえるが、モルフは真面目に言っている。もうなにも言わないシャオは黙って準備を始める。


 タステへの向かい方は、まずは行商人から馬車を奪う。馬車を使えば、タステへ向かうためにかかる時間は大幅に短縮することができる。そして、行商人に扮してタステへ入り、アオの捜索を始めるというところだ。


 モルフとシャオ、そして残り二人の少女――イリカとサナレは、拠点を出て、山道近くまでやって来る。


「いつも通り、イリカとサナレが油断させるから、二人は後ろからね」


 イリカは、くすんだ灰色の髪をぼさぼさしながら言う。


 遠くに見える馬車にターゲットを決める。たまに現れる護衛がついていない馬車だ。


「行くよ」


 イリカの声に、サナレと呼ばれた気の弱そうな少女が頷く。二人は山道へ出ると、イリカは道の真ん中でへたり込む、そしてサナレがイリカを運び出そうとする。


「あの二人、よくあれやるけど、顔憶えられないのかな?」

「顔よりも髪色で覚えられてそうだけどな。ま、か弱い女二人を見捨てることはできねえんじゃねえか?」

「それはどうなんだろ……」

「おい……! 来たぞ!」


 モルフの言葉で口を閉ざすシャオ。二人は一度山道から離れ、二手に分かれる。


 行商人は若い二人組の男だ。その男たちは、山道でへたり込んでいるイリカとそれを動かそうとして、額に汗をかいているサナレを見つけるや否や馬車を止め、助けようと動く。


 そしてその隙に、後ろに回ったモルフとシャオが馬車を奪う。


 突如嘶いた馬に反応した行商人が、サナレ達から目を反した瞬間――二人はそれぞれ行商人の首に巻きつく。流れるような動きに、なにが起こったのか理解できぬまま、意識を刈り取られた行商人を山道の端に運んで、山道から見えないように隠すと、身につけている物をいくつか拝借し、四人は何事もなかったかのように馬車に乗ってその場を後にする。


「よぅし、上々だな」


 行商人から盗った帽子を被ったモルフが笑う。


「やった! 果物だよ」

「よかった……食べ物には困らなそう」


 人が乗ってもまだ余裕のある荷台から、シャオとイリカの声が聞こえる。


「俺の分も残しとけよ。てか騒ぎすぎんなよ。あと誰か手伝え、馬二頭は流石にムズイ」


 すると荷台から出てきたサナレが、モルフの隣に座る。その口には果汁がついていた。


「お前なに早速食ってんだあ?」


 サナレの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわすモルフである。


 満足そうに目を細めたサナレが手綱を握る。傍から見れば、似てはいないから兄妹――とまではいかないが、仲の良い同僚ぐらいには見られるかもしれない。普段は物だけを奪って逃げるだけだが、今回は馬車ごと奪って、そのまま山を下りるのだ。経験したことが無かったが、なんとかなるだろうと動けば本当になんとかなった。


 そして、今は行商人の行き交いが多い時間帯だ。もし、さっき襲った二人の知り合いにでも会えば、奪ったことがばれてしまうかもしれない。それを回避するため、モルフ達が山を抜けるまで、団員が他の行商人の妨害をし、気づかれないようにするよう計画している。その計画が上手くハマり、行商人達の目は、他には向かない。


 あまりの幸先の良さに、この場にいる誰もがアオをすぐに見つけることができることを信じて疑わなかった。

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