気が付いた碧は、岩の床にへたり込んでいた。
心が温かく、穏やかな気持ちだ。一つの小さな光が碧の周りをふわふわと漂う。
翠の感情を解放することができた。最後の最後、終わりの瞬間、楽しいと思ってくれたのだろう。
「翠……すぐに会えるよ……」
ゆっくりと立ち上がった碧は翠の下へ一歩一歩近づく。
『楽』の感情が翠に戻れば、すぐに地獄へと行くことになるらしい。
碧は仙人に頷きかけ、翠の傍らに立つ。
小さな光が翠の中に入る。
これで、翠の喜怒哀楽が揃った。
「来るぞ」
ボコボコと水が沸騰する音が背後から聞こえた。
音の出どこは、碧が今まで飛び込んでいた水瓶だ。透明の水で満たされていた水瓶は、今は真っ赤に染まり沸騰していた。マグマのように粘性の物ではない。あれは血だ。
地獄にあると言われる血の池がそこにはあった。その沸いた血が水瓶から飛び出し、大きな血の腕となり、碧と翠に襲い掛かる。
「ちょっ――噓⁉」
こんな感じで連れていかれるのかと、思いっ切り嫌そうな顔をした碧が翠を抱きしめる。
嫌そうな顔をしても真っ赤な腕にとっては知ったことではない。
腕が碧と翠を掴む時、仙人もその間に身を滑りこませた。腕はそのまま三人を掴み、水瓶の中に引きずり込まれた。
三人同時に水瓶には入らないだろうと直前碧は思ったが、そのツッコミを入れる暇なく見事に三人同時に水瓶の中に入ってしまった。
誰もいなくなった空間に残った水瓶の中は再び透明な水が満たしていた