突然だが、少し昔の話をしようと思う。
若干変わっていると自負している俺自身の話と、そんな俺と友達になってくれた奴らの話だ。
幼少期から「可愛い」「女の子みたい」と周囲に言われることが多かった。《愁》という名前も男の子らしいものではなかったことも相まって、保育園から小学校まで勘違いされた回数は数えきれない。公園で遊んでいた時に、知らないおっちゃんに声をかけられたことも、まあ少なくない。
そんなに女の子らしいだろうかと最初は分からなかったけれど、家で鏡の中の自分を見れば、まあ確かに「そのへんの女の子よりも可愛いなあ」と納得してしまった。決してナルシストというわけではなく、あくまで事実の再認識であることは主張していきたい。
その上で、服屋に売られている男子小学生向けの半袖短パンよりも、アパレルショップにある女児服の方が格段に自分に似合っていることに気付いてしまってからは、行動は早かった。
適当にしていた髪をしっかりと伸ばし始め、親にねだる服も女児向けになった。鏡を見てみれば、あまりに似合いすぎてびっくりした。俺を男だと分かっているヤツは奇異の目で見てきたけど、逆に言えば男だと知らないヤツは「可愛いね」「美人さんだね」と褒め称えるばかりだった。つまり「似合っている」ことは周知の事実だったわけだ。
不幸なことなのか、それともありがたいことなのか、両親も弟も、俺の女装を否定しなかった。「似合っているからいいじゃない」と、能天気に首を傾げる家族に、ほんの少しだけ残っていた羞恥心は消えていった。
そんなわけで、俺、雨野愁は満を持して女装で出歩く道を歩み始めたわけだ。
——ストップ。この話の本題はそこじゃあない。話したいのは、その女装で通っていた中学校で、割と気の合う友達と出会ったところだ。
それから長く友達をやることになったそいつらは、随分とヘンテコな三人組だった。
小学生の時からつるんでたという三人のうち、二人は全く同じ顔をしていた。月島和兎と、月島朔は、所謂双子ってやつだ。同じ顔と同じ身長を持つくせに、中身は全然違うのが面白かった。二人に共通するのは、俺の恰好が《女装》だと分かっても、それに対して一切変な目を向けなかった点だ。俺を俺として見てくれる二人の隣は、とても心地よかった。
あとの一人は一歳年上だった。年上と仲良しって変な感じだと思ったけど、小学生からの付き合いと聞けば、まあ分からなくもない。星空陽輝というその先輩もまた、俺の女装については変な目を向けてはこなかった。——というより、どうでもいい、と感じていたんだろう。あいつは初めて会った時から、双子の片割れ——月島和兎しか見ていなかった。
高校2年の時だっただろうか。拗れに拗れていた二人がようやくくっついた。まあ複雑な感情も事情もあったけど、二人が幸せならまあいいかと思って見守っていたら、なんと今度は双子が揃って俺の前から消えた。
理由はよく知らない。気にならないと言えば嘘になるけど、聞いて欲しくなさそうな和兎を問い詰める気はなかった。双子は俺に「あいつには何も話さないでくれ」と言って、新しい連絡先だけを渡してアメリカに消えた。置いていかれた陽輝からは「何か聞いていないか」と死ぬほど聞かれたけれど、『話さないでくれ』と言われたことを伝えるような薄情者ではないつもりなので「言えないし、そもそも詳しいことはよく知らない」と言い続けた。かつての親友に、一応嘘ではないセリフを言えたのは救いだったかもしれない。
友達——親友と言ってもいい奴らが上手くいかなかった、というのは、まあそれなりには精神的にくるものはあった。けれど結局、そいつも俺も卒業して疎遠になった。そんな話も、もう四年も前のことだ。
和兎、朔とは会社関係の話を含めた連絡を何度かとった。陽輝とも、一応ごくまれにメールする程度の仲で、ここまで来た。俺たちを繋ぐ縁は、ギリギリのところで繋がっている。そう思っていた。
さて、ここでこの話をしたのは理由がある。
「今度の月曜日に。じゃあ、また」
「……ああ、また」
今目の前にいる二人が、どう見ても約四年前に縁を切った親友カップルだったからだ。
……なんで?
……あ、声かけるの忘れた。