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7話 海王国からのSOS(5)

「それよりトモマサ。随分とクナルと親しいじゃないか。もうそれなりに仲は進んでるのかい?」

「え?」


 肩をがっちり組まれ逃げ場のない俺にクライド妃は楽しそうにする。その隣ではエルシー妃もキラキラした目をした。


「クナルは昔この奥院で少しの間暮らした子なのよ。そつなくって感じだったのに、今日は凄く感情的で」

「ツンツンなクソガキだったのにな。何回か泣かせた」

「泣かせた!」


 クライド妃、実は強い? いや、分かる。触れている体が騎士団の人達っぽい。細いのに筋肉質で強そうなんだ。


「ん? どうした?」

「いえ、あの……鍛えてる感じが」

「あぁ、俺は本来イライアスの護衛騎士だったんだよ。それがあの野郎、惚れたってしつこく口説くもんだから手が悪い。エルシーって婚約者もいるのによぉ」

「えぇ!」

「でも、私も納得しましたもの。クライドは凄く強いのよ。それに凄く格好いいの! 当時は男女問わず求婚されていて、それにもなびかないのがまた」


 この話って、実は一歩間違うとドロドロ展開待ったなしなんじゃ……。


「私だってクライドの事ちょっと好きだったのよ? でも、陛下が惚れてるのも知ってたし、上手くいけば家族になれるって思って」

「お嬢が何故か積極的に俺とイライアスの背中押しまくってな。義理が立たないって言ってんのにゴリ押しで」

「お慕いしている陛下と憧れのクライドが睦まじくしているのを見ているだけで私は幸せですわ」


 困り顔のクライド妃に対し、エルシー妃は頬を染めてちょっとくねくね。これって……。


「推しと推しの絡みは尊いっていう、オタク女子のあれなのよ」

「はは……」


 星那の解析は間違いないなって思った俺だった。


 そんな俺達の後ろから誰かが近付いてくる。気づいてそちらを見たら穏やかに微笑んでいるロイと、知らない男性が一人。

 綺麗に撫でつけた黒髪に黒豹の耳。肌の色も褐色だから、多分ロイのお父さん……なんだろうけれど、雰囲気はもっと渋めだ。頭が小さいのはそうだけれど、目元は切れ長で少し瞼が厚く、眉なども男らしい。

 そんな男性が俺を見て、にっこりと笑っている。


「すみません、両殿下。少しだけマサさんをお借りしてもよろしいでしょうか」

「ロイか。それにメイナードも」


 クライド妃が軽い感じで両名に視線を向ける。それに壮年の男性の方は軽く会釈をした。


「これはクライド妃、お久しゅうございます」

「やめやめ、そういうのはいい。挨拶だろ? 好きにしなよ」


 ペッペと手で払ったクライド妃は少し下がる。エルシー妃も同じだ。

 こんなやりとりを呆然と見ている俺にロイが微笑み、丁寧に礼を取った。


「この度は本当に、お世話になりました。個人的には命を救っていただき、なんてお礼を申し上げていいか分かりません」

「それはもういいですよ、ロイさん。俺がそうしたかったんです。それに星那も頑張っていました」

「勿論、セナ様にも大変お世話になりました」

「気にしないで。それが私の役目だし、個人的にもロイは好きだもん」

「嬉しい限りです」


 コロコロと上品に微笑み、やんわりとした金の瞳を向けてくる。本当に美人だな、ロイは。


「マサさん、実は僕の父も貴方に挨拶がしたいと言っておりまして」


 伝え、一歩脇に避けたのを合図に男性が前に出てくる。

 背が高くて、でも体格は良さそう。王様なんかには敵わないけれど。

 その人は俺を見て目尻を下げて、丁寧に握手を求めた。


「初めまして、トモマサ殿。ロイの父でメイナードと申します」

「相沢智雅です」


 握手に応じたけれど、手が大きい。ゴツゴツとしていて男の人の手だって凄く感じるものだ。


「この度は国と、そして息子ロイを助けていただきありがとうございました。なんとお礼を申し上げてよいか」

「あの、本当に気にしないでください。当然の事です」

「そう言って頂けると嬉しいです。ですが、貴方に対し何重にも感謝の気持ちがあるのもまた事実。そこで、これを貴方にお渡ししたく参ったのです」


 そう言うと彼は懐から何やら出してくる。盾と、シルエットの黒豹っぽいエンブレムのピンブローチだ。それを俺の手に握らせる。


「これがあれば、何時いかなる時も優先して私に連絡が届きます。困りごとがありましたらお使いください」

「ありがとうございます」


 とは言うけれど……。


「おっ、凄いなトモマサ。国の宰相を顎で使っていいんだとよ」

「え!」

「あら、狡いわメイナード。マサ、私のも貰ってくれるかしら?」


 そう言って渡されたのは同じようなピンブローチだ。此方は交差する二本の剣と中央に盾。そしてそこに獅子のエンブレム。そこにはピンク色の小さな宝石がついている。


「これで何時でも奥院に通してくれるわ。お茶もしたいですし」

「おっ、その時には美味い菓子を頼む。君の料理は美味いと、愚息がそれは自慢げで腹が立っていたんだ」


 そう言いながらクライド妃も同じ物を渡してくる。こっちの宝石は青い色をしていた。


「えっと?」

「凄くモテモテですね、マサさん。しかも王妃二人と父と」

「あの、ロイさんこれって!」

「親愛なる者に渡されるものです。これを持っているとなれば、その者が後ろ盾となっている事の証。ある意味最強ですよ」

「政治的に手を貸せるかは分からんが、口添えくらいはできますぞ」

「変なクソ貴族にちょっかい掛けられたら言いな。物理で潰す」

「金銭的に困ったら頼ってくださいな。これでもそれなりの貴族家ですのよ」


 どうやら俺はこの一瞬で政治力、武力、財力を手にしたようだ。

 いや、使いどころ分からないし使わないから!

 分不相応な力って怖いなって実感したばっかなんで、お友達でお願いする事にした。


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