少しかがんでもらって、俺はクナルの左耳に耳飾りを付ける。輪っかの隙間よりももふっとした耳の厚みがあるから心配したけれど、近づけると輪が引き延ばされて開きが広がって綺麗に付ける事ができた。
なんだか、大分照れる。形の良い雪豹の耳に光るシルバーの耳飾りはとても綺麗だ。同じ物が俺の耳にもついているなんて。
でも、凄く幸せそうに彼が笑うから、俺も同じように笑えるんだ。
「マサ」
柔らかく名を呼ばれて、近付いた人の腕が腰に回る。顎を取られ、上向かされて、受け入れた唇はとても柔らかくて頭の芯まで染み入ってくる。
「んっ」
舌が唇を舐めて、僅かに開いた隙間から滑り込んできて口腔を探られる。
知らない甘い刺激が響いた。歯の裏側、舌の根元。くすぐったいような、それだけじゃない感覚。
自然と力が抜けてくる。気持ちよくて、もっと欲しいと思えてくる。倒れそうな俺はクナルの首に腕を回して、それでもまだ欲しくて受け入れた。
「もう少し」
「ん……」
低い囁きの後、再び触れた唇。舌はもう探るなんて事はしない。最初から絡まってくる。受け入れて、吸われると痺れる。知らず体は震えていた。膝が笑って力が抜ける。その腰をクナルはしっかりと抱きかかえている。涙が頬を伝って、頭は何も考えられなくなってただぼんやりと彼を見ていた。
「クナル……」
唇が離れて見つめる彼の目は同じように濡れている。
俺、どうなるんだろう。もしかして、このまま一線越えるのかな?
不安は少し、怖さも少し。でもそうなったとしても後悔はないって思える。気持ちがなければ怖いけれど、そうじゃないって思えるから。
でもクナルは力の抜けた俺をベッドに座らせただけで、それ以上はしてこなかった。
「クナル?」
「まぁ、ここから先はな……我慢する」
「え?」
「え? ってなんだよ」
「いや」
てっきりこのまま……と思っていたから。なんか、流れとかで。
でもクナルは参ったように頭をかいている。隣に座って膝に肘をついて手を組んで、そこに額を置いて。
「いいかマサ、あんたはまだ使命の真っ只中だろう」
「うん」
「今、一瞬でも許したら俺は理性きかないぞ」
「……え?」
「抱き潰して、それでも離してやれない。完全に囲い込んでその体から俺の匂いが取れなくなるまで毎日抱き潰していいのか? いいって言うならやるぞ」
「駄目!」
この空気でとんでもないこと言った! そんな事になったら俺死んじゃう!
苦笑したクナルが顔を上げて、俺の頭を撫でて額にキスをくれる。
いつの間にか花火は終わっていて、辺りはとても静かだった。
「全部終わって、何の気兼ねもしなくていいようになったらそうする。今はこれでいい」
「うん」
「欲を言えば毎日、二人だけの時間は欲しい」
「俺もクナルといる時間が欲しい」
「おやすみのキスくらいはしたい」
「うぅ、恥ずかしいけれど……」
でも、同時にくすぐったくて嬉しい。
柔らかく微笑んだ人を見上げて、どちらともなく触れるだけのキスをする。それが温かくて嬉しくて、俺は幸せを噛みしめた。
§
翌日、朝の身支度をしながら耳についている飾りを改めて見る。これは滅多に外れないし壊れないから付けっぱなしでいいらしく、付けたまま寝た。まったく違和感がない。
「へへっ」
照れくさいな。でも、嬉しいな。
鏡を見て笑ってしまう自分のだらしない顔を見つつ、今だけは許されると自分に言って顔を洗って。
そこにノックがあって出たら、同じように耳飾りをつけたクナルが居て、俺を見て幸せそうに微笑んでくれた。
「おはよう」
「うん、おはよう」
互いに言って、自然と近付いてきた顔が甘やかすみたいに唇に触れる。それだけで今日も一日頑張れる。
「さて、行くか」
「うん」
連れだって進むその手は、とても自然に繋がれていた。