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11話 東国からの要請(14)

 その背中からクナルの腕が伸びて抱き寄せられる。髪が首筋に当たってちょっとくすぐったかったけれど、それ以上にクナルは元気がなかった。


「クナル?」

「俺が守ると、言えればいいのに。今回はそんな大口すら叩けねぇ」

「え?」


 耳はぺしょんと折れて、尻尾はだらっと下がってしまっている。その様子に心配する俺だけれど、シムルドの方から声がかかった。


「情けないねぇ、坊主。不利なフィールドで自信喪失か?」

「うっせぇ。力が出やしないんだよ」


 睨み付ける目すら力がない。そんなクナルに向かい、シムルドは困ったように頭を掻いた。


「まぁ、確かに今のお前は蒼旬の加護も得て水、氷属性が極めまで上がってる。火属性強々のこのフィールドじゃ、実力は半分以下に落ちる」

「そういうものなの?」


 問うと猿之介もうんうんと頷いている。


「属性効果はけっこう厳しいですな。水や氷と炎は対局。同格の属性魔力を持っていれば、フィールドボーナス受けられた方が圧倒的に有利になる」

「加えて、火属性の高い場所じゃ氷属性下位の方がフィールドからのデバフは少ない。逆言えば極めまで高い適性を持ってるとデバフかかりまくりだ。魔法攻撃は通らないし消費魔力も通常の倍。防御だって半分の効果。後、常に怠い」


 思った以上に深刻な状態に俺の方がアワアワする。それじゃ辛くて当たり前だ。それでなくても熱さに弱いのに。


「あの、クナル無理しないで」

「いんや、無理して貰わないと困る。智雅の安全を確保するにはフィールド効果を受けてない俺と猿が囮や誘導、攪乱に回る事になるだろう。クナルにはしっかりと護衛についてもらわんとならん」

「でも!」


 こんな状態では無理が過ぎる。

 それでも、クナルは頷いて俺を見た。今も顔色、あまり良くないのに。


「壁くらいにはなる」

「クナル危ないよ」

「あんたに何かある方が嫌だ」


 そう言われて、苦しくて切なくなる。何か方法があればいいのに。


「そこで、だ。智雅、そいつに加護を与えてくれ」

「加護?」


 それって、どうすればいいわけ?


「お前は女神から多大な加護を受けている。そのお陰もあって平気だろ?」

「うん」

「それを短時間分けてやるんだ」

「具体的にはどうすれば」

「そいつを祝福する気持ちで濃いめのキスをすればいい」

「キ!」


 スぅぅぅぅぅぅ!


 アワアワする俺の隣でクナルは何故か耳がピンと立ち、次にはソワソワし始める。尻尾までピンと立ったままだ。いや、分かりやすいな!


「額とかは……」

「それでもいいが、その程度の接触じゃ数分だぜ? 今回は強めの効果が数十分は続かないと話にならんからな。唾液や血液を相手に入れるのが効果的だ」

「具体的にしなくていいから!」


 いや、うん。嫌じゃないよ。絶対に嫌じゃない! ただ恥ずかしいじゃん、この人達の前で。


「マサ」

「うっ」


 拒否られたと思ったのか、クナルの耳や尻尾がさっき以上にぺしょんとする。くそ、大きいのに可愛いってなんか狡い!


「……あの、ちょっとだけ席外してもらえませんか?」


 シムルドに問うと彼はニヤっと笑う。が、猿之介は心得たのか立ち上がり、先に通路の方へと行ってくれた。


「おんや、素直だねぇ」

「下手に首を突っ込んで馬に蹴られちゃたまんないので」


 腰に手を当てて嘆息したシムルドも先に行ってくれた。

 俺は改めてクナルと向き合うけれど、視線がなんだか気になってしまう。こういうの、見られてると余計にしづらい。


「あの、クナル。目、閉じて貰ってもいいかな?」

「あぁ」


 素直に目を閉じて待っている彼の唇を見て、凄くドキドキと自分の心臓が音を立てていく。濃いめのキス、しかも自分から。どう、したらいいんだろう。唾液ってことは舌を入れ……っっ!


 ダメだ、想像したら余計にできなくなる。勢いに任せてしまったほうがきっといい。

 唇に祝福を乗せて。クナルの事を守ってくれるように願ってすればいい。これはやましい事のない、必要な事なんだ。恋人同士のキスじゃないんだ!


 よし!


 クナルの前に座って、首に腕を回す。目、閉じてると余計に綺麗だな。睫長くて凄い。って、こんなジッと観察するみたいに見るなんて変態っぽい! 視線が五月蠅いよ俺!


 自分も目を瞑って、祈りだ、祝福だ、加護だ! と念じまくって初めて自分からクナルの唇に触れた。柔らかくて、でも弾力もある。


 あ、俺今自分からクナルにキスしたんだ。


 そんな、妙な実感が込み上げてくる中、突然スルッとクナルの舌が俺の口腔へと押し入ってきた。


「んっ! ぅ……んぅぅ」


 驚いて、でも次には蕩けるような気持ちよさが背に走る。クナルの舌は巧みに絡まって、俺の知らない気持ちの良いところを探ってくる。俺はそれに翻弄されて、一瞬で頭の中が真っ白になった。


「あっ、クナルっ」


 息継ぎの合間に名前を呼んだ。でも……そうだ、俺……祝福を、加護を。


 浮き上がりそうな頭の中をどうにか動かして願うと、不思議とクナルの中に俺の魔力が入っていく感じがある。それが混じって溶けていくのは、ちょっとエッチな気がした。


 結局最後はクナルにしっかりやり返され、離れた時には呆然。頭の中ふわふわしてるし、腰も抜けていた。ぽやっとする俺を見て、クナルはなんだかご満悦だ。


「よし、補充も出来た」

「うん」

「絶対に俺が守る」


 手を差し伸べられて触れる熱さと大きさ。引き上げてくれる力強さ。そこにはいつも通りのクナルがいて、俺は少し恥ずかしかったけれど、それ以上に良かったと思えるのだった。



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