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第64話 癒しを求めて


 綾斗と秋紘の承認を得られた湊と煉。いくつか超えてきた難関の中で、今回が1番緊張していた。煉ですら、激しく気疲れした様子を隠せないでいる。


 そして、クタクタになった2人は癒しを求め、隠れ家の様なレストランへ腹拵えをしに来ていた。

 個室に入った2人は、席に着くなり大きな溜め息を漏らした。


「アイツら、ステージと雰囲気全然ちげぇのな。圧すげぇわ」

「綾斗くんは特に、ね。サルバテラのメンバーが大好き過ぎて、社長とか変なスタッフさんには結構高圧的なんだ」

「へぇ··、以外だな。すげぇ温厚そうに見えんのに。ま、お前も似たようなもんか」

「あ、なんか嫌味っぽいなぁ」

「はは、わりぃわりぃ。けどアレだな、刹那はイメージあんま変わんねぇわ」

「あー··そうだね。秋紘くんは良くも悪くも裏表がないんだよ」


 料理が運ばれてくるまで、2人は綾斗と秋紘の話題で持ち切りだった。それが一段落したところで、煉は気になっていた尚弥の事を訊ねてみる。


「雪って、さ··、お前仲良いの? あ、ほら、ライブとかでも絡む事多いっつぅか、夕陽と雪はお前のこと甘やかしてる感すげぇじゃん」

「あぁ··あれね。グループの中では、僕が末っ子って感じだからだよね。1番頼りないんだよ、多分」

「あ? そうじゃねぇだろ。お前が1番可愛いからなんじゃねぇの?」

「か、わ····はぁ··。煉さ、揶揄ってんのか本気なのか分かんないよ。もっと分かり易くしてほしいな」

「ンだよそれ。マジに言ってんだけど」


 照れてしまった湊は、水の入ったグラスで顔を隠すように深く口をつけた。煉はそれを見て、可愛いとまた微笑む。


「で、雪とはどうなんだよ。特別仲良いとかなワケ?」

「別に、他の皆と変わらないと思うけど····どうかしたの?」

「いや、なんとなく気になっただけ」


 煉は、ふいっと視線を逸らして安堵した表情を隠す。


(雪の無自覚な片想い…で、コイツは気づく要素ナシ。ま、いつもの事か)


 樹と惟吹に続き、仁まで湊を狙っている現状。もう、誰が湊を狙っていようが驚きはしない。そう思う煉だが、放っておくわけにもいかないのである。

 友達よりも近い存在であるサルバテラのメンバー。その中の一人が狙っているとなれば話は変わってくる。いくら湊にその気がないと言っても心配は尽きない。

 けれど、これ以上事を荒立てたくないのが煉の本音でもある。結果、煉は綾斗たちと同じ判断を下し、その事にはそっと蓋をしておくことにした。 


 湊はと言うと、先日の一件から煉のモデル業に興味津々で、食べている間も煉を質問攻めにした。何より湊は、あの衣装を着た煉をもう一度見て、インスピレーションを得たいと思っていたのだ。

 それを煉に頼んだが、煉は困った顔でやんわりと断った。


「あの衣装、樹にやったんだよ」

「そっか····。でも樹じゃイメージ違うんだよね」

「ん、分かった。回収するわ」


 そう言って、スマホをタプタプと操作すること数十秒、煉は樹に例の衣装を返すようにと連絡を入れた。

 秒で『おけ』と返ってきたのを、湊に画面を見せて知らせる煉。にぱっと喜ぶ湊の笑顔を見た煉は、満足気にパフェを口に運んだ。



 軽食を食べ終え、そろそろ帰ろうかと席を立つ湊。

 煉は、先ほど見た湊の笑顔の所為で、湊に触れたくて仕方がなかった。我慢の限界を迎えた煉は、個室なのをイイ事に湊を捕まえて壁際に追い込む。


「ちょ、煉····。こんな所でダメだよ」

「ちょっとだけ、キスしてぇ」

「んぅ····」


 強引に唇を奪う煉。満更でもない湊だが、溢れてしまう声が気になって集中できない。


「はぁ··れ、ん····待っ──んんっ」


 聞く耳など持たない煉は、唇だけでは飽き足らず、頬や首筋にまで吸い付く。


 歯止めが利かなくなると思った湊は、なんとか逃れようと背を向けた。けれどその途端、煉は背後から湊の両手首を掴んで壁に押さえ込んだ。

 煉の指が、湊の手の甲を撫でるように這う。上手く力が入らず、払い退けられない湊。

 煉は、ゆっくりと指を絡めて手を繋ぎ、赤らんだ項へキスを落とす。


 煉は湊を半回転させ、そっと手を取る。優しく指先を握り、胸の高さまで持ってくると、ビクビクする湊の反応を見ながら、またゆっくり指を絡めていく。


「振り払わねぇの?」

「え?」

「嫌じゃねぇの?」

「嫌··じゃない」

「なんで?」

「なん、で··って····す、好きだから」

「ん、知ってる」

「なっ、なんなの··もう····」

「俺以外にも、こうやって触らせんの?」

「は? ね、待って。どういう意味?」

「メンバーにもこんな事させんの? 仲、良いんだろ」


 蓋をすると決めた煉だったが、嫉妬が滲み出てしまう。


「ううん」

「樹と仁には?」

「さ··せ、ない····。ね··煉、触り方がえっちだよぅ…」


 煉は、手を握ったまま迫り、湊を壁へ追い込んでゆく。


「嫌?」

「い、や··じゃない、けど····」

「けど何?」

「は、恥ずかしいよ····」

「俺以外に、こんな事させんなよ」

「させないよ! 煉のばかぁ····」

「なぁ、俺にはどこまでさせて平気なの?」

「····どこまで?」

「キスの先」

「へ?」

「嘘。まだいい。なぁ、お前からキス、またシてほしい」

「し、しないよ!」


 焦った湊は、思わず煉の手をギュッと握り返した。


(キスの先····って、そういう事だよね?)


 自らの頬を抱え、熱く真っ赤になった顔を伏せる湊。煉と目を合わせることができず、俯いたまま煉に尋ねる。


「ねぇ、何がしたいの?」

「別に····。お前、メンバーからすげぇ可愛がられて好かれてんだな。って、思ったら··その、ちょっとイラついた」


 綾斗達から聞いた話がずっと頭から離れない煉。尚弥に想われている事も、綾斗や秋紘から大切にされている事も、嬉しい反面どうにも気にくわないのだ。


「····もしかして、ヤキモチ?」

「······わりぃかよ」


 不貞腐れた煉は、湊を抱き締めて耳元で囁く。


「お前は俺ンだからな。他の誰にも渡さねぇし、指一本触らせたくもねぇ」

「んへへ、じゃぁ握手会できないね」

「それは我慢する····けど、終わったら俺がめっちゃ手ぇ握って上書きしてやる」

「わぁ、独占欲の塊だ」

「わりぃかよ」

「悪くない。僕も同じだから····」


 そう言って、湊はぎゅぅぅっと煉を抱き返した。



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