綾斗と秋紘の承認を得られた湊と煉。いくつか超えてきた難関の中で、今回が1番緊張していた。煉ですら、激しく気疲れした様子を隠せないでいる。
そして、クタクタになった2人は癒しを求め、隠れ家の様なレストランへ腹拵えをしに来ていた。
個室に入った2人は、席に着くなり大きな溜め息を漏らした。
「アイツら、ステージと雰囲気全然
「綾斗くんは特に、ね。サルバテラのメンバーが大好き過ぎて、社長とか変なスタッフさんには結構高圧的なんだ」
「へぇ··、以外だな。すげぇ温厚そうに見えんのに。ま、お前も似たようなもんか」
「あ、なんか嫌味っぽいなぁ」
「はは、わりぃわりぃ。けどアレだな、刹那はイメージあんま変わんねぇわ」
「あー··そうだね。秋紘くんは良くも悪くも裏表がないんだよ」
料理が運ばれてくるまで、2人は綾斗と秋紘の話題で持ち切りだった。それが一段落したところで、煉は気になっていた尚弥の事を訊ねてみる。
「雪って、さ··、お前仲良いの? あ、ほら、ライブとかでも絡む事多いっつぅか、夕陽と雪はお前のこと甘やかしてる感すげぇじゃん」
「あぁ··あれね。グループの中では、僕が末っ子って感じだからだよね。1番頼りないんだよ、多分」
「あ? そうじゃねぇだろ。お前が1番可愛いからなんじゃねぇの?」
「か、わ····はぁ··。煉さ、揶揄ってんのか本気なのか分かんないよ。もっと分かり易くしてほしいな」
「ンだよそれ。マジに言ってんだけど」
照れてしまった湊は、水の入ったグラスで顔を隠すように深く口をつけた。煉はそれを見て、可愛いとまた微笑む。
「で、雪とはどうなんだよ。特別仲良いとかなワケ?」
「別に、他の皆と変わらないと思うけど····どうかしたの?」
「いや、なんとなく気になっただけ」
煉は、ふいっと視線を逸らして安堵した表情を隠す。
(雪の無自覚な片想い…で、コイツは気づく要素ナシ。ま、いつもの事か)
樹と惟吹に続き、仁まで湊を狙っている現状。もう、誰が湊を狙っていようが驚きはしない。そう思う煉だが、放っておくわけにもいかないのである。
友達よりも近い存在であるサルバテラのメンバー。その中の一人が狙っているとなれば話は変わってくる。いくら湊にその気がないと言っても心配は尽きない。
けれど、これ以上事を荒立てたくないのが煉の本音でもある。結果、煉は綾斗たちと同じ判断を下し、その事にはそっと蓋をしておくことにした。
湊はと言うと、先日の一件から煉のモデル業に興味津々で、食べている間も煉を質問攻めにした。何より湊は、あの衣装を着た煉をもう一度見て、インスピレーションを得たいと思っていたのだ。
それを煉に頼んだが、煉は困った顔でやんわりと断った。
「あの衣装、樹にやったんだよ」
「そっか····。でも樹じゃイメージ違うんだよね」
「ん、分かった。回収するわ」
そう言って、スマホをタプタプと操作すること数十秒、煉は樹に例の衣装を返すようにと連絡を入れた。
秒で『おけ』と返ってきたのを、湊に画面を見せて知らせる煉。にぱっと喜ぶ湊の笑顔を見た煉は、満足気にパフェを口に運んだ。
軽食を食べ終え、そろそろ帰ろうかと席を立つ湊。
煉は、先ほど見た湊の笑顔の所為で、湊に触れたくて仕方がなかった。我慢の限界を迎えた煉は、個室なのをイイ事に湊を捕まえて壁際に追い込む。
「ちょ、煉····。こんな所でダメだよ」
「ちょっとだけ、キスしてぇ」
「んぅ····」
強引に唇を奪う煉。満更でもない湊だが、溢れてしまう声が気になって集中できない。
「はぁ··れ、ん····待っ──んんっ」
聞く耳など持たない煉は、唇だけでは飽き足らず、頬や首筋にまで吸い付く。
歯止めが利かなくなると思った湊は、なんとか逃れようと背を向けた。けれどその途端、煉は背後から湊の両手首を掴んで壁に押さえ込んだ。
煉の指が、湊の手の甲を撫でるように這う。上手く力が入らず、払い退けられない湊。
煉は、ゆっくりと指を絡めて手を繋ぎ、赤らんだ項へキスを落とす。
煉は湊を半回転させ、そっと手を取る。優しく指先を握り、胸の高さまで持ってくると、ビクビクする湊の反応を見ながら、またゆっくり指を絡めていく。
「振り払わねぇの?」
「え?」
「嫌じゃねぇの?」
「嫌··じゃない」
「なんで?」
「なん、で··って····す、好きだから」
「ん、知ってる」
「なっ、なんなの··もう····」
「俺以外にも、こうやって触らせんの?」
「は? ね、待って。どういう意味?」
「メンバーにもこんな事させんの? 仲、良いんだろ」
蓋をすると決めた煉だったが、嫉妬が滲み出てしまう。
「ううん」
「樹と仁には?」
「さ··せ、ない····。ね··煉、触り方がえっちだよぅ…」
煉は、手を握ったまま迫り、湊を壁へ追い込んでゆく。
「嫌?」
「い、や··じゃない、けど····」
「けど何?」
「は、恥ずかしいよ····」
「俺以外に、こんな事させんなよ」
「させないよ! 煉のばかぁ····」
「なぁ、俺にはどこまでさせて平気なの?」
「····どこまで?」
「キスの先」
「へ?」
「嘘。まだいい。なぁ、お前からキス、またシてほしい」
「し、しないよ!」
焦った湊は、思わず煉の手をギュッと握り返した。
(キスの先····って、そういう事だよね?)
自らの頬を抱え、熱く真っ赤になった顔を伏せる湊。煉と目を合わせることができず、俯いたまま煉に尋ねる。
「ねぇ、何がしたいの?」
「別に····。お前、メンバーからすげぇ可愛がられて好かれてんだな。って、思ったら··その、ちょっとイラついた」
綾斗達から聞いた話がずっと頭から離れない煉。尚弥に想われている事も、綾斗や秋紘から大切にされている事も、嬉しい反面どうにも気にくわないのだ。
「····もしかして、ヤキモチ?」
「······わりぃかよ」
不貞腐れた煉は、湊を抱き締めて耳元で囁く。
「お前は俺ンだからな。他の誰にも渡さねぇし、指一本触らせたくもねぇ」
「んへへ、じゃぁ握手会できないね」
「それは我慢する····けど、終わったら俺がめっちゃ手ぇ握って上書きしてやる」
「わぁ、独占欲の塊だ」
「わりぃかよ」
「悪くない。僕も同じだから····」
そう言って、湊はぎゅぅぅっと煉を抱き返した。