学校へ向かう途中、コンビニに寄った湊。煉が表紙を飾る雑誌とスイーツを買う。
煉が表紙の雑誌に、サルバテラの名前も載っている。後で煉と一緒に見ようと思い、湊は雑誌を鞄へしまった。
放課後、空き教室へ向かう湊。今日は特に予定が無いので、一緒に課題をする約束をしていたのだ。
煉が躓く所を、学年上位の湊が丁寧に教えてゆく。おかげで、近頃の煉は成績がグングン伸びていた。
パックのプリン・オレを飲みながら教室に入ってきた煉。同じものを湊に手渡し、そっとキスをして課題を始める。
こうして挨拶の様に軽いキスをすることで、煉は湊をキスに慣れさせようとしていた。その甲斐あってか、流石の湊も少しずつ慣れてきたようで、いちいち頬を染めなくなった。大幅な成長だ。
そして、次の段階へ進むタイミングを、煉は焦らないように探っていた。
煉がトイレへ立っている間に、雑誌を買ったことを思い出した湊は、鞄から取り出しパラパラと捲った。
(明日はレッスンか··。これからまた忙しくなりそうだし、煉に会えなくなるの寂しいな····)
などと思いながら、他には目もくれず煉の特集ページを探す湊。中程で不意に見つけた煉の視線。大きなクッションを抱き抱え、真っ直ぐにカメラへ目線を向ける煉と目が合った。湊は反射的に頬を染める。
だが、次のページをパラッと捲った瞬間、湊の躍っていた胸がドクンと脈打ち静まり返った。
玉座の如く絢爛な椅子に、ふんぞり返って座る煉。その膝の上には下着の様な服を着た女性モデルが座り、煉に肌を寄せて密着している。こんな撮影があったなど、何ひとつ聞いていなかった湊。耐えきれずに雑誌を閉じてしまった。
ジクジクと熱くなってゆく胃。湊の手が震える。そこへ丁度、煉が戻ってきた。
湊は、煉の顔も見ないまま立ち上がる。
「ご、ごめん。僕、用事思い出したから帰るね」
「は?」
震える声で気丈に振る舞う湊。だが、煉はすぐに湊の異変に気付く。当然、煉がそれを許すはずなどなかった。
それでも、湊は逃げる様に部屋を出ようとする。
「待てよ」
煉は、逃がすまいと湊の手首を掴んだ。しかし、湊はそれを振り解いてドアに手を掛ける。
怒った煉は、湊の背後からドアにバンッと手をついて開けるのを阻む。
「なんで俺から逃げんの? なぁ、こっち向けよ」
「······今、凄く嫌な気持ちがグルグルしてて、煉の顔、見れない····」
そう言って、湊は後ろ手に雑誌を指差した。煉は湊の指す先を見る。置き去りにされた雑誌を見て、煉は心底焦った。
絶対に湊が嫌がると思って言えなかった撮影。アレが載っているものだと、煉は瞬時に察知する。
煉が一瞬固まっている隙をつき、湊は教室を抜け出した。
全速力で廊下を走る湊。すぐ近くの階段を駆け下りる。が、煉は余裕で追いつき湊の肩を掴んだ。
「待てって!」
「やだっ、離して──わぁっ!?」
階段の踊り場、煉は掴んだ肩をグッと引き寄せる。向かい合い、視線を合わせたままジリジリと湊を壁へ追い込んでゆく煉。
後退る湊の背中が、壁にトンとついた。煉は壁に手をつき、唇が触れそうなほど近づく。
「離して」
「ムリ」
「こんな所、誰かに見られたら──」
「うるせぇ」
「··っ、僕、今、凄く汚い気持ちがグルグルしてるんだ」
湊は、気持ちを正直に伝えようと俯く。けれど、煉は湊の顎をクイッと持ち上げ『顔見て話せ』と言う。
「煉と、綺麗な女の人が、凄く似合ってて、僕なんかって思っちゃって··、煉は僕のなのにって··、煉の恋人は僕なのにって··」
「うん。黙っててごめん。湊にはあんなん見られたくなかったから言い出せなかった。わりぃ」
「····怒ってないの?」
唇、頬と通り過ぎ、耳元で話し始める煉。
「なんで怒れるんだよ。それよか、嬉しい··と、思っちまったんだから、しょーがねぇだろ」
「こんな、僕なのに?」
耳元でクスッと笑う煉。不安そうな湊を見て、愛されていることを実感する。
「嫉妬、した?」
「一瞬。でも、仕事だからしょうがないって思ったから··、そう思ったのに····。嫉妬した自分が、凄く心が狭くて、自分の事しか考えられなくなって、そんなの、煉に嫌われちゃうって、思って····」
湊はポロポロと涙を落としてゆく。
「嫌わねぇよ」
煉は湊の涙を指で拭い、湊をギュッと抱き締めて囁いた。
(こんなトコでやべぇな。誰かに見られたらコイツが困んのに、離してやれねぇ····)
湊は、煉の考えなど知らずに、そっと抱き返した。誰かに見られたって構わない。そう思えるほど、湊はいつの間にか煉を深く深く想っていた。
「抱き締めたいと思ったのは、お前だけだからな」
「····え?」
「他にンなやついねぇし、蒼でもねぇ、湊だ」
時が止まったかの様な静けさの中で、湊の心臓は爆ぜてしまいそいなほど強く脈打っていた。
「僕もだよ。煉じゃなきゃ嫌だ。それに····」
「それに?」
「煉が抱き締めるのは、僕だけがいい」
文化祭の劇を見てから、煉の芝居への可能性を考えて飲み込んでいた言葉。湊は、それを抑えきれずに言ってしまった。
けれど、煉の想いを知った今ならば、演技の上での接触くらい耐えられるような気がしたのだ。そんな思いを、
湊は、自己満足に浸りながら煉を抱き締めた。
湊の真意など知らぬ煉。昂った気持ちをもう抑えられないと、覚悟を決めて言う。
「湊、今から俺ん家来い。もう我慢できねぇ」
それがどういう意味なのか。察した湊も覚悟を決め、赤く染まった頬を夕陽の