年末のイベントで披露するセトリが決まった。それに向けてのレッスンが始まり、湊はまた忙しさに飲まれてゆく。
「湊ぉ、もう疲れてんの? 体力つけなよ!」
秋紘が、湊のお尻をぺちんと叩いて喝を入れる。
まだ怠さと感覚が残った下半身への刺激は、湊を驚かせるには十分だった。
「ひあぁっ!」
湊の悲鳴に場が凍りつく。シンと静まり返り、3··4··5秒。
「み、湊? 大丈──」
「湊、ちょっといいかな」
綾斗が、尚弥の言葉にカブせてにこやかに湊を呼び出す。
綾斗に連れられ部屋を出る湊。秋紘は『面白そ〜』と白々しく言ってついて行った。
スタジオが入っている3階建てビルの屋上。ここなら誰にも聞かれまいと、綾斗は核心から切り込む。
「湊、彼氏と上手くいってるみたいだね」
「え?」
綾斗が何を言いたいのか分からない湊。やれやれと、秋紘は湊の正面から腰を抱き寄せ、後頭部へ手を回し首筋へ顔を寄せる。
そして、耳元で甘い声を響かせた。
「彼ピとこういう事、シちゃった?」
「ひぅっ····」
漸く、綾斗たちの言いたい事を理解した湊は、ぶわわわっと顔を真っ赤に染め上げた。十分過ぎる返答だ。
「そういうデリケートな所に、あまり口を出したくはないんだけどね。あぁも反応されると、俺たちも困るからさ」
「あーんな可愛い声あげちゃってさぁ、オレらじゃなきゃ反応しちゃうよ?」
秋紘はそう言うと、膝を割って太腿で湊の股間をクイッと刺激した。
「んぁっ····」
甘い声を漏らす湊。綾斗が秋紘の首根っこを掴み引き剥がす。
「こーら。あんまり揶揄わないの。獰猛な彼ピに噛み殺されちゃうよ」
「はーい。でもセンセー、湊が可愛いのが悪いと思いまーす」
「それはそう。··あ、ン゙ン゙ッ····誰がセンセーだ」
「いでっ」
思わずブラコン気質な素が出てしまう綾斗。咳払いをして誤魔化し、秋紘の肩を割かし強めに叩いてツッコんだ。
「湊、大丈夫? ちょっと落ち着いた?」
湊に反論する余地はなく、コクコクと頷くばかり。
「湊はピュアッピュアだからな〜。ま、何回かヤッたら慣れて余裕も出んじゃない?」
「アキ、デリカシーね。元はと言えば、アキがセクハラするからでしょ」
「セクハラじゃありません〜。ただのスキンシップですぅ〜」
減らず口をたたく秋紘へ、溜め息を零す綾斗。とにかく、過剰な反応をしないようにと注意を置いて、3人はスタジオへ戻った。
「湊、大丈夫?」
駆け寄ってきた尚弥が、心配そうに訊ねる。
「うん、大丈夫だよ。悩み事でもあるんじゃないかって心配されちゃった」
「そうなの? ボクでよかったら相談に乗るよ?」
「ありがと、ナオくん。別に、悩みとかじゃないんだ。ホントに、ちょっと疲れてただけだから」
へへっと笑って誤魔化す湊。半信半疑な表情を隠しきれない尚弥だが、今は湊の言葉を信じて見守ることにした。
所変わって、とあるカフェのテラス席。その一角に、煉と向かい合って座る樹と仁。
煉は、久々に樹と仁から呼び出され、予定もなかったので渋々応じたのだ。
「俺らさ、喧嘩してんじゃん?」
唐突な樹の発言に、首を傾げる煉と仁。
「喧嘩っつぅか、お前らが勝手に湊狙って喚いてただけだろ。ヨユーで俺のだし」
「うわー、ウザ~。でも俺、湊きゅんに本気だけど別に本命じゃないし。てか、お前らとマジで揉めたら妹に怒られんだよね」
2人の言い分に、ワナワナと怒りが込上げる樹。
「俺は本気で湊狙ってんだよ。奪う気なの! けど今はそれ置いといて」
「置いとくんだ。ウケる〜」
いちいち揶揄う仁を、もう相手にしない樹。無視してさっさと話を進める。
「俺らが仲違いしてっと女子がウザイくらい心配して喋りかけてくんの! アレ、マジでめんどいから表面上仲良くしねぇ? ってハナシ」
「それは普段から樹が女の子に愛想振りまいてるからじゃんね?」
「だな。俺は
「俺も〜」
煉は苺とショコラのフラッペを吸いながら、仁はテーブルに肘をつき挙手をしてオフザケ混じりに言った。なので、樹の怒りは最高潮。
「お前ら全無視してるだけだろ! 人としてどうなんだよ!? 煉は湊以外の人間ゴミみたいに思ってるし、仁はビビってパニクって結局いつも俺に丸投げじゃんか! 俺居ないと三王子マジでクズだぞ!」
「別に、三王子とか周りが勝手に言ってるだけだし。俺ら困んないし··ねぇ?」
「あぁ。顔がイイっつぅのもめんどくせぇな」
しれっと言う煉に、ドン引きする仁と樹。
「煉はそのうち一回刺されそうだよね~」
「は? なんで俺が刺されんだよ。つか樹って意外と声張るよな。そのうち血管切れんぞ」
どこまでも他人事な煉と仁。怒っているのが馬鹿らしくなった樹は、特大の溜め息を吐いて項垂れた。
そして、ほんの少しの沈黙を置いて、樹は確認する様に煉へ質問を投げる。
「進展は?」
「なんの?」
「湊との」
「あぁ、あー··まぁ、それなり」
顔を背け、通りを行き交う人々へ視線をやる。
「絶対なんかあったじゃん。煉、顔真っ赤ぁ~」
揶揄う仁へ、いつもなら蹴りの一発でもいれる煉だが、今日は借りてきた猫の様に大人しい。と言うよりも、機嫌がよく穏やかなのだ。
仁に『いいコトあったんだ』と言われ、フラッペのストローを加えて『まぁ··』と返す煉。
「まさかと思うけどさ、湊に限ってないと思うけどさ、もしかして····ヤッた?」
悲壮感を漂わせ、答えを聞く前から顔を青くしている樹。流石の煉も心配するほどに。
けれど、隠したとて無駄な事だと思い、煉はあっさりと白状してしまう。無駄にドヤ顔で、無意識に樹を煽っている事には気づかないまま。
「ヤッた」
煉の答えを聞くや否や、ガタッとすごい勢いで席を立った樹。そのまま、何も言わずに小走りでトイレへ向かった。