大好評のまま最終回を迎えた『恋きづ』に続き、例のBLドラマでも世間をにぎわせている煉と湊。ドラマの制作が発表されるや話題沸騰となり、想定以上に雑誌の撮影や取材が増えた。
どこへ行っても2人一緒な事が多く、プライベートでも密接な関係なのではないかと噂が立つまで、さほど時間はかからなかった。
前髪を下ろさなくなった湊は、学校でも蒼として振る舞うようになっていた。こちらのほうが素に近い湊は、照れくさいものの嘘を吐く心苦しさから解放されていた。
ファンが覗きに来ると笑顔で手を振り、蒼として扱われる事にも少しずつ慣れてきていた。だが、連日の質問攻めには辟易し、笑顔で躱すのも限界がきていた。
今日も今日とて、雑誌を片手に群がってきた女子が、煉との関係についてあれやこれやと質問を投げてくる。
「ねぇねぇ、Renとこの距離感てヤバくない?」
「ねーっ、マジで羨ましいんだけどぉ」
ドラマの取材を兼ねた撮影では、絡み方もより近接的になっていった。向かい合わせで煉の膝に乗り、肩に手を添えてカメラへ視線を流す湊。煉は湊の胸元に顔を寄せ、腰に手を回している。
そんなツーショットのページを見せながら言われ、湊は『月宮くんが上手くリードしてくれるから、撮影はいつも楽しいよ』と受け流す。
休み時間の度これなので、湊は気持ちの休まる時間がなかった。
「噂すごいじゃんね。ホントに付き合ってないの? 誰にも言わないからさ──ひゃぁ♡」
背後から湊の脇を持ち上げ、ふわっと立ち上がらせる影。樹だ。隣には仁も居る。
「樹くん♡」
途端に女子たちが色めき立つ。それに構わず、樹は湊をしゃんと立たせた。
「お話し中ごめんね。ちょっと借りていい?」
「いいよ~♡」
「ありがと。あ····あとさ、あんまりプライベートなこと聞いちゃ可哀想だよ。遠慮してあげようね」
そう言ってウインクを飛ばす樹に、女子たちはイイ返事をして引き下がった。
今回に限らず、樹や仁が助けた時は決まってこうなる。その場は一旦諦めるものの、ほとぼりが冷めればまた寄ってくる。同じことの繰り返しなのだ。
例の如く、空き教室へ連れ込まれる湊。そこで待っていた煉に、湊は安堵した顔を見せた。
教室の後ろにある棚へ鎮座している煉が、湊を呼びつける。嬉しそうに煉のもとへ駆け寄る湊。仁と樹には、まるで、小型犬が尻尾を振っているようにしか見えなかった。
そんな湊を見てきゅんきゅんが止まらない煉は、緩んだ表情で湊の頭を撫でて言う。
「毎日大変そうだな」
「まぁね。て言うか、なんで煉は絡まれないの?」
「俺は──」
「煉は近寄んなオーラ出しまくってるからでしょ。普通に怖いもん」
と、仁が嫌味っぽく言った。確かに、いつにも増して雰囲気がピリついている煉。女子に絡まれる湊への嫉妬や、根掘り葉掘り聞かれる煩わしさが剥き出しになっていた。
「俺はずっとこうだろ。変わんねぇよ」
怠そうに髪を掻き上げ、壁にもたれて天井を仰ぐ煉。天井を見つめながら、唇をキュッと締めた。
「けど··、湊の為に変わんのも悪くねぇよな」
ぽそっと呟いた煉。誰も聞き取れず、その言葉は煉の心に秘められたままとなった。
教室に居づらい湊と煉の為、空き教室へ集まる事が増えていた。2人きりだと噂に尾ひれがつくので、必ず揃って行動する三王子と湊。
気がつけば『四王子』や『姫と騎士』などと呼ばれるようになっていた。
「姫って僕のことだよね。誰が姫だよ!」
とある昼休み、屋上で昼食を食べていた湊がぷりぷりと怒っていた。よほど鬱憤が溜まっているのか、ここ数日の不満をぶち撒けている。
湊の珍しい姿に、必死で笑いをこらえている三王子。
「湊が可愛いのはしょうがないからね。てか、この卵サンドめちゃくちゃ美味しいね」
「ね。俺も思ってた。店で出せるレベルじゃない?」
「んへへ、ありがと」
「湊の手料理は俺のモンなんだよ。なのに、なんでお前らまで食ってるわけ?」
皆で食べようと沢山作ってきた湊。ヤキモチを妬く煉に『小さいコト言わないの』と言って窘める。
けれど、嫉妬がピークを迎えようとしている煉には、何を言っても無駄だった。
「お前は俺のモンだろ。俺以外に優しくすんのも気に食わねぇし、俺以外に笑ってんのもすげぇ腹立つ」
「うわー、恋愛初心者こわ」
「つかアイドル相手に何言ってんの?」
仁と樹がドン引きしている。それでも、湊は煉の気持ちが嬉しいと口元を緩める。
「湊きゅん、甘やかしちゃダメだよ? メンドイ事はメンドイって言わないとさ」
「そーそ。ウザいって思ったら言っていいんだよ? じゃないと、仕事しづらくなるんじゃない?」
湊を気遣うテイで、遠回しに煉をディスる2人。イラついた煉は、腹いせに2人からサンドイッチを取り上げた。
「恋人独占すんのの何が悪いんだよ。俺は全部湊に独占させてんぞ──って··あ、こら湊!」
さも当たり前のように言いきる煉。2人はさらにゲンナリした顔で、湊が取り返したサンドイッチに手を伸ばす。
「煉はね、仕事に関しては我儘言わないよ。アイドルとしての僕も好きだって言って、全力でお仕事させてくれてるんだ」
仁と樹は、当たり前じゃんと言いたげな顔で煉を見る。ジトッと送られた視線に、また苛立つ煉。ふんと顔を逸らして不機嫌をぶつけた。