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第113話 煉の豹変


 不機嫌極まりない煉に、仁が爆弾発言をかます。


「俺と樹は束縛とかし合ったりしないよ。なぁ?」


 しれっと吐かれた、仁と樹が付き合っている趣旨を含んだセリフ。下手に反応できず、3人は固まってしまった。

 そして、煉と湊はゆっくり樹へ視線を流す。2人から見つめられた樹は、気まずそうに視線を逸らした。


「はぁ····内緒って言ったのに。仁のバカ····」


 樹が大きな溜め息を漏らす。項垂れて、隣に座っている仁の肩へ、拳を緩くぶつけた。


「あ~、ごめーん」


 仁は顔の前で両手を合わせ、軽薄なウインクで詫びる。それを見て苛立った樹がもう一発、今度は強めの肩パンを食らわせた。


(仁のヤツ、絶対確信犯だろ。つか俺にくらい言えっつぅの。あんっだけ惚気聞いてやったのに…)


 2人が身体を重ねた経緯まで聞かされていた煉は、結果報告がなかった事に不満を感じていた。それに対して湊は、素直に喜んでいいのかと第一声を躊躇っていた。


「湊、黙っててごめん。この際だし、揃ってるから言うけど····」


 まだ湊を諦めきれていないけれど、これからは友達として大切に思い続ける事、絆されてはいるが仁を好きになったわけではないという事など、樹は現状を素直に報告した。

 少しだけ寂しさを感じながらも、湊は樹が前進しているのだと知って安心したのだった。


 仁と煉が付き合っている事はさて置き、目下の問題について話し合う。


「煉が助けに入ると余計ややこしくなるだろうから、湊きゅんの救出は今まで通り俺と樹ですんね」

「あぁ、頼む」

「2人とも、いつもありがと。僕も頑張って誤魔化せるように練習してるからね!」


 胸の前で両手の拳を握り、誰よりもやる気を見せる湊。だが、その空回りっぷりに三王子は呆れて笑う。


「練習····って、どうやって?」

「えっとね、イメトレ?」

「んふ····じゃぁ、付き合ってるの? って聞かれたらなんて答えんの?」


 笑った挙句、厭味ったらしく聞いてくる樹に、ムッとした湊はドヤ顔で答える。


「平然として、仲良しなだけだよって言うもん」

「あー··ね、即バレ。湊きゅんは何も言わないで笑って誤魔化してよっか」

「えぇ~····」


 不満そうな湊に煉が言う。


「嘘つくの嫌なんだろ? 俺がどうにかしてやっから、お前はもう嘘つかなくていいよ」

「煉、どうすつもり? 何か策があるの?」

「まぁな。ま、任せとけ」


 湊の唇へ指を添えて黙らせた煉。湊が困り顔を見せるけれど、煉は具体的な内容を言おうとしない。

 いったい何をするつもりなのか、言い知れぬ不安に駆られる湊。けれど、自信たっぷりな煉の笑みが、漠然とした不安さえ消し飛ばしてしまった。



 翌日から、煉の態度が一変した。


「今日の月宮くん、ヤバくない?」

「別人みたいだよね」


 ファンの女子たちにそう囁かれるほど、煉の態度が良い。物腰柔らかく女子に対応し、笑顔で受け答えしているのだ。まるで、劇で見せた王子様の様に。


 友人と話しながら教室を出ようとする女子生徒が、入ってきた煉とぶつかりそうになった。今までの煉なら、威圧感剥き出しで『おい』なんて声を掛けて避けさせていただろう。

 けれど、今日の煉は一味違う。煉は咄嗟に避け、よろけた女子の肩を抱きとめ『大丈夫か』と声まで掛けた。


「だだだっ大丈夫です!」


 パニクる女子に笑顔を向け、煉は何事もなかったかのように席へ座る。それを、他の生徒たちと同様に見ていた湊と仁。呆然として言葉が出ない。

 けれど、おかげで話題は一気に煉の変貌ぶりへ移り、群がる先が湊から煉へ集中した。


 2人よりも早く、機を逃すまいと煉に迫る一軍の女子たち。煉は、普段なら威嚇するように蹴散らしていたであろう彼女らへも、見たことがないほどの笑顔を向ける。

 しかし、その笑顔はまぎれもなく貼りつけたものだと、仁と湊は気づいていた。2人は顔を見合わせ、仁がコソッと樹を呼び出す。


 呼び出しを受け、3人のクラスへやって来た樹。遠くから煉を眺め、暫く様子を観察していた。


「煉、ジュース買いに行こー」


 いつもの様に、樹はさりげなく煉を呼び出す。


「俺も行く~。湊きゅんもおいで~」


 それに乗っかり、仁は湊の手を引いて教室を抜け出した。



 それぞれ、ジュースを手に裏庭へ。あまり手入れのされていない裏庭はほとんど人が寄りつかないので、密かにたむろう場所となっていた。

 4人は並んでレンガ造りの花壇に座り、煉の豹変ぶりについて話し始める。


「さっきの何だよ。湊がすっごい複雑そうな顔してるじゃん」

「あれは流石の俺でもビックリしたっつの。予想外過ぎだよ。湊きゅん、ずっと俺の横で可愛いお口あんぐりだったかんね?」


 2人から責め立てられる煉。湊は、未だに言葉が出ないままだ。


「俺が引きつけてたら湊は絡まれねぇだろ」

「いや、そりゃ効果絶大だけどさ! それじゃ今度は湊きゅんが妬き妬きしちゃうじゃん」

「バカ仁。問題はそこじゃないでしょ」

「え~、どこ?」


 漫才の様な勢いで会話が繰り広げられる中、湊がぽそっと口にした。


「僕が、ファンの人たちに態度悪くしないほうがいいって言ったから?」


 仁と樹が湊を見る。煉はパックジュースのストローを咥えると、バツが悪そうにチューっと一息で吸い上げた。


「いつの話掘り返してんのさ····」


 いつぞやのインタビューで見せた愛想の良さと同じ雰囲気を感じていた湊。まさかとは思っていたが、煉の態度を見て確信した。

 自分が言い出した事でもあり、評価が上がる事に繋がるのならば、一存で突っぱねるなどしづらい作戦。一層複雑な心境で、湊は苛立ちを剥き出しにする事もできないでいた。



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