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第116話 煉が居るから····


 ドラマを盛り上げる為のでっちあげではないかと言われる2人の関係。高校生である2人をダシにして視聴率を狙うなど言語道断だと、擁護する声さえ上がっていた。

 予想していた反応とはいえ、実際に受けるダメージは大きかった。特に湊は、自分たちの関係が偽りだと言われる事を何よりツラく感じていた。



 撮影の合間、楽屋に籠りがちな湊へ煉が声を掛ける。


「撮影、暫く再開しないみたいだな」

「だね。監督さん、めちゃくちゃこだわり強いよね」


 セットが思っていたものと違ったため、大幅な修正をすると言って数時間待機になったのだ。怠そうな表情で、湊にヘルメットを手渡しながら煉が言う。


「めんどくせぇオッサンだよな。けどま、折角時間できたしツーリングいかねぇ?」

「····うん」


 笑顔を絞り出し、湊はヘルメットを受け取った。


「どこ行くの?」

「すげぇ気持ち良いトコ」


 それだけ言って、煉はバイクを走らせた。


 1時間ほど休みなく走り、着いたのはそれほど標高が高くない山の麓。バイクを停め、煉が湊のヘルメットを預かる。


「ここすげぇ静かでさ、湊も好きじゃねぇかなって思ってたトコなんだよ」


 元々歪だった家族関係の亀裂が大きな溝になった頃、煉の精神面を案じた鈴が強引に連れてきた癒しスポット。天然の草木でできたトンネルを抜けると広場がある。地元の人しか知らない穴場で、誰にも邪魔されず静かに森林浴ができる。

 当時の反抗期真っ盛りだった煉は、鈴の善意を素直に受け入れられず、悪態をついてすぐに帰ってしまった。けれど、実は何度か一人で足を運んだことがあったのだ。


 落ち込んでいる湊にこの場所を教えたくなった煉は、鈴の気持ちをようやく汲み取る事ができ、申し訳ない気持ちと感謝を覚えていた。

 その事を説明し、煉は湊の頭にポンと手を置く。


「1人のが良かったら俺はその辺ぶらついてっからさ、ゆっくり──」

「煉と一緒がいい」


 湊は、煉の袖をちょんと摘まんで言った。


 2人は草木のアーケードをくぐり広場に出た。広場と言ってもそれほど広くはなく、小さなワンルームくらいの広さ。小鳥のさえずりが遠くに聞こえる。

 木漏れ日に目を細め、湊は手で影を作る。そして、天然の芝生絨毯に腰を下ろした。


「良い天気だったんだね」


 天気を気にする余裕さえなかった湊。煉は、キュッと唇を真一文字に締めた。


「····今のままで、そんな調子でやっていけんのか?」

「······どうだろ。でも、煉と離れるのとかは考えられないし、気にしないようにするのが得策かなって」

「それは違ぇだろ。なんでお前ばっか我慢すんだよ」


 言い返す言葉もなく、湊は黙って俯く。


「あ、わりぃ。湊を責めてるわけじゃ····」

「えへへ、わかってるよ。煉は優しいね」


 煉の肩に、頭をコテンと預けて言う湊。煉が自分を想ってくれているだけで、少し元気が出るのだった。

 けれど、それに気づかない煉は、湊の為にできる事がないかと焦り思案する。そんな煉の手を、湊はそっと握って言う。


「煉が隣に居てくれたら、全部が大丈夫って思えるんだよ。僕がツラいのはね、世間に認めてもらえない事より、煉との関係がウソだって言われる事なんだ」

「あぁ、ドラマの話題作りの為って言われてるアレか」

「うん。僕たちの気持ちがウソだって言われてるみたいで悔しくってさ····。だって、こんなに煉のこと大好きなのに、それを伝える事もできないし──って··わぁっ!?」


 湊の言葉を聞き、昂る気持ちを抑えきれなくなった煉は、衝動に任せ湊を押し倒した。


「れ、煉····?」

「俺も、湊のコトすげぇ好きだって全人類に言いふらしてぇよ。お前が俺の彼氏だって自慢しまくりてぇ。そういうの、お前が嫌がるかと思って遠慮してたけど、やめるわ」


 そう言って唇を重ねる煉。湊の目からは、煉への愛おしさが涙となって溢れた。


 そっと唇を離すと、煉は湊の隣へごろんと寝ころんだ。


「流石にここでヤるわけにいかねぇし、時間もそろそろやべぇよな」


 煉は、自分へ言い聞かせるように言った。それを聞いた湊は、コロンと転がって煉の方を向く。


「煉、大好きだよ」


 湊は地面に肘をついて少しだけ身体を起こす。そして、風でそよぐ髪を耳に掛け、軽く重ねるだけのキスをした。

 一瞬の出来事に驚く煉。だが、そっと目を閉じて、時々見せる湊の勇気に酔いしれる。


 まだ小鳥の様なキスしかできない湊。それを可愛いとしか思えない煉は、あえてキスを返さず湊のしたいようにさせる。

 湊が物足りなそうに唇を離すと、煉は湊を抱き締めた。


「んわぁっ」


 胸に抱えられた湊。煉のはやる鼓動を耳で感じる。ギュッと抱き締められた肩で、煉が理性と戦っている事を察した湊はクスっと笑った。


「愛してる」


 不意に耳へ流し込まれた愛の囁きに、湊の心臓が大きく跳ねた。起き上がって煉の顔を見ようとするが、そうはさせまいと力一杯抱き締められて動けない。

 抵抗を諦めた湊は、煉の胸に頭を置いたまま静かに呟く。


「僕も、愛してるよ」


 2人は互いの温もりに安心感を覚えながら、時間がくるまでそのまま静かに過ごした。



 リフレッシュした湊を乗せ、撮影現場に戻った煉。スッキリした顔でスタジオに入るや、スタッフが居るにも拘わらず湊の肩を抱き寄せて歩く。

 スタッフから歓声に近い悲鳴が聞こえてくる。


「れ、煉!?」

「公表してんだし別に問題ねぇだろ。つか、今まで変に気にしてたからワケ分かんねぇコト言われたんじゃねぇの? だったら、遠慮なくイチャつけば良んじゃね?」

「あ····そっか、なるほどだよ。あはは! なぁんだ、イチャつけば良かったんだ」


 単純な事に気づいた湊は、今まで思い悩んでいたのがバカらしくなってケラケラと笑った。

 事情を知らぬスタッフたちは、楽しそうに笑う2人を見てつられて微笑む。煉のおかげで元気が出た湊は、晴れ晴れした気持ちで撮影へ臨むことができた。



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