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第117話 楽しい体育祭


 ドラマの撮影が順調に進む中、月宮学園では体育祭が行われていた。

 成績に影響を与える学園行事は休むことができない湊。湊にスケジュールを合わせている煉も、もちろん参加する。


「煉ってさ、去年の体育祭いたっけ?」

「いたけど、ずっと屋上で寝てたよね」

「なのに今年は気合十分、湊きゅんにイイトコ見せようって? 人って変わるもんだねぇ~」


 孫の成長を見ているような仁と樹。2人のジジ臭い会話に、湊は視線を煉へ置きながら笑う。


「なんかね、いっぱい出場するみたいだよ。僕もクラスの皆にせがまれて、今年はあれこれ出る事になってるんだ」


 湊は、困った様に笑って言う。

 強制参加の団体競技にしか出場しなかった昨年とは一転、今年は活躍を期待されている湊。学校側の制約がなくなった今、身バレを気にせず行事を楽しむ事ができ、ようやく学園生活を満喫できている。

 勿論、蒼として周囲から注目や期待される事に悪い気はしていない。けれど、新たに友人と呼べるクラスメイトがいない事は、湊の中で鬱悶の種となっていた。見てもらえない事への寂しさが、時々そよ風のように心を揺らすのだ。


「人気者は大変だねぇ。ま、俺らもそこそこ出るんだけどな」

「俺、一応運動部だからさ、走る系はほとんど出るよ~」


 仁がサッカー部だったことを思い出し、2人は『そういえば····』と声を揃えた。


「なんか失礼じゃね? って··あ! 次煉の番だよ湊きゅん!」


 仁が煉を指差して言う。200m×4人のリレーで、アンカーを務めるのが煉なのだ。

 ゴール前を陣取っている3人。湊はスマホを手に、湧き上がる女子たちに交じって応援する。


「煉! 頑張れー!!」


 流すように走って2人をごぼう抜きし、3位からの凄まじい追い上げを見せた煉。ゴール手前で湊に気づきウインクを飛ばした。そして、2位と大差をつけてゴール。

 悲鳴に近い歓声が巻き起こる中、湊は顔を真っ赤にして連写する。


「月宮くんの彼氏感エグ!」

「西条君の近くやっぱ狙いめだったね!」

「Renが彼氏とかホント羨ますぎだわ。キャラ変してからファンの伸び数もヤバいよね」

「それな~」


 近くに居た2人を推す女子たちが、次々に声を上げキャッキャと騒ぐ。けれど、それをよく思わない者も一定数いた。

 嫉妬や妬みなどは、何処からともなく故意として飛んでくる。同性同士のカップルを受け入れられないという声も少なくはない。

 特に、男子からは好奇の目で見られた。


「女子うるせ~」

「なぁ、アイツらって男同士でヤッてんの?」

「うへ~キツ~」

「でもさ、西条って見た目とか女子とかわんねぇじゃん?」

「確かに~。俺も抱いてみて~」


 意図して湊に聞こえるよう言葉を投げる。 


「おいお前ら!」


 心無い言葉の数々に、樹が激怒する。


「樹、僕なら大丈夫だから····」

「大丈夫なワケないだろ!」

「こっわ~。姫サマ守られてんじゃん」


 男子たちは悪びれた様子もなく、ゲラゲラと笑いながら去ってゆく。


「樹さぁ、気持ちわかるけど俺らが庇うと逆効果だよ。湊きゅん、だいじょぶ?」

「うん、大丈夫だよ。えへへ、あんなの慣れちゃった」


 笑って見せる湊。顔を見合わせた2人の表情に影が宿る。



 昼食後、午後の競技が始まる前、仁と樹は何やら工作をしていた。


「お前ら、さっきから何作ってんの?」

「へっへ~、イイモノ~」


 仁がルンルンと小さな紙を折っている。


「で~きた。ンじゃ樹、コレお願いね」

「おっけ。まっかせなさ~い」


 なんの説明もなしに、樹は仁から受け取った小箱を持ってどこかへ行ってしまった。


「お前ら、何企んでんだよ」

「樹、なんか悪い顔してたよね」


 心配そうな煉と湊を横目に、仁はニマニマと満足そうにスマホを弄っていた。


 2人の企みが分からないまま、競技は始まる。午後一番の競技は借り物競争。これには仁と煉が出場する。偶然にも、2人とも最終走者だ。


「煉、段取りだいじょぶ?」


 仁は、先ほど工作していた紙切れを煉に手渡して言った。煉は、それを握り締めて答える。


「ヨユー。ったく、何考えてんのかと思ったら····。お前ら悪巧みだけは得意だよな」

「だけとか失礼すぎでしょ。ま、湊きゅんの為でもあるし、樹の為でもあるし、ついでに煉もスッキリすんじゃん? 俺的には一石三鳥って感じ」

「俺はついでかよ。なんでもいいけど、とりあえずありがとな」


 聞き慣れない煉からの礼に、仁は目を丸くして驚く。


「ジュース1本でいいってことよ~。結局最後は煉任せだし」

「お膳立てあってこそだろ。あとで樹にもジュース奢ってやんねぇとな」


 喋っている間に滞りなく競技は進み、いよいよ2人の番。よーいドンのピストルが鳴り、一斉に駆け出す。

 数メートル先にあるテーブルには箱が置かれていて、中には借りてくるモノのお題を書いた紙が入っている。走者はそれを1枚引き、お題に沿って借り物を探すというもの。


 煉は、箱の中に手を突っ込む。取り出した紙を見た煉は、ふっと笑って一目散に湊のもとへ走る。


「湊、来い」

「へ? えぇっ!?」


 モタつく湊を抱きかかえ、煉はゴールを目指した。


「や~だ、攫われちゃったぁ····」


 ぽそっと呟いた樹。そこへ仁がやって来た。


「お前も今から攫われるんですけど?」

「は? ちょ、おい、聞いてないんですけどぉ!?」


 仁は樹を肩に担ぎ走り出す。流石は運動部と言わんばかりに追い上げる仁。煉に追いつき接戦を演じる。

 けれど、抱えている物の大きさが違う所為か、仁は徐々に減速していく。そうして、ゴールテープを切ったのは煉だった。



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