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第119話 サプライズゲスト


 これからも傍に居る事を願う穂月。煉は湊へ視線を配り、湊がそれに頷いて応える。


「お前がどこで何してようが俺には関係ねぇよ。余計なコトしねぇんなら何も言わねぇ。好きにしろ」


 安堵の表情を覗かせた穂月。今度は指先へ感謝のキスをした。



 それから数週間。ドラマの撮影がクランクアップしたとて、2人は多忙を極めたまま。

 特に湊は、数日後にライブを控えており、レッスンに余念がなかった。けれど、交際を発表してから初めてのライブということで、いつもとは違った緊張をしている。

 そんな湊へ声を掛けたのは尚弥だった。


「湊、いつもより気合入ってるね」

「ナオくん····。うん、失敗なんてできないからね」


 煉に頼まれていた綾斗と秋紘は、交際が発表される直前に尚弥へ事実を伝えていた。尚弥に、湊を想っている事を自覚させる事はせず、メンバーとして支えてあげようと伝えたのだ。

 自分の想いに気付いていない尚弥は、純粋に湊の応援をしたいと思う一方、胸の奥がツキンと痛む苦しさを感じていた。けれど、尚弥がその痛みの理由に気づくのは、これからまだまだ先の話。


「皆にも迷惑掛けちゃってるし、いつも以上に頑張らないとだもんね」

「誰も迷惑だなんて思ってないよ。湊は好きな人ができただけでしょ。素敵なコト··なんだよ、きっと。ボクはまだ恋愛ってよくわからないから、ちょっと羨ましいや」


 そう言って、へへっと笑う尚弥。自分の中に芽生えているドロドロした気持ちには気づかないフリをした。


「だいたい、今時恋愛禁止とか時代錯誤なコト言ってる社長のほうが迷惑だよ」

「ホントそれな~」


 尚弥の肩に腕を乗せ、もたれ掛かるように鬱陶しく絡んできた秋紘が共感する。


「ちょっとアキくん、重いんだけど」

「ナオちっちゃいから寄っ掛かりにく~い」


 秋紘の軽口を発端に揉め始める2人。秋紘の後ろについて来ていた綾斗が、湊を見て困った様に笑う。


「ほーら、2人ともレッスン再開するよ。湊を見習って、真面目にレッスン受けるんだよ。特にアキ、俺との絡みミスりがちなんだから厳しくいくよ」

「うぇ~。練習は本番じゃないから気分乗らないんだってぇ」

「はいはい、だから本番だと思ってやりなって言ってるでしょ」

「思っても違うもーん」


 だだをこねる秋紘の胸倉を掴み、持ち場へ引いていく綾斗。ふと立ち止まり、振り返って湊に言う。


「湊は気張り過ぎないようにね。いつも通りじゃないと、僕たちのペースも乱れちゃうから。もう少し気楽にいこうね」

「う、うん!」


 綾斗のアドバイス通り、湊は力み過ぎていた肩の力を抜こうと、深呼吸をしてレッスンへ戻った。



 そうしてライブ当日、いつもの様に煉が湊を会場まで送る。


「ちゃんと見てっから、今日も楽しませてくれよ」


 そう言って湊の頭にポンと手を置き、頬へ軽いキスをして激励する煉。湊は気持ちを切り替え、笑顔で『行ってきます』と答えた。その顔は、既に蒼であった。


 ライブが始まり、観客はいつもと同じ盛り上がりを見せる。湊は安心し、最高のパフォーマンスを見せる。それに引っ張られるかの如く、メンバーのパフォーマンスも上がってゆく。

 そんな中、湊は煉を見つけられないでいた。いつもはすぐに見つけられるのに。


(もしかして、来てない····? そんなはずないよね。何も言ってなかったし。何かあったのかな····)


 会場の規模が大きくなったからかと思ったが、毎回再前列で目立っているあの煉を見つけられないなんてと、漠然とした不安が湊を襲う。


 トークが始まり自己紹介を終えると、ステージの照明が落ち刹那だけがぼんやりと照らされた。


「ここでサップライ〜ズ! 今日はスペシャルゲストに来てもらってまーす」


 刹那のセリフに驚く蒼。スペシャルゲストが来る事など聞いていないのだ。

 夕陽に視線を送るが、それをふいっと交わされてしまう。


「はーい、蒼の恋人・Renくんで~す」


 沸き立つ会場。ファンは比較的2人の関係を受け入れているので、Renの登場に喜ぶばかりだった。

 ステージの袖から現れたRenに、黄色い歓声が上がる。Renはまっすぐ湊へ歩み寄ってゆき、そして戸惑う蒼の隣へ立った。


「どうも、蒼の彼氏のRenです。ここ最近、色々驚かせっぱなしですみませんでした」


 突然のことにあたふたする蒼だが、刹那に肩をポンと叩かれハッとする。


「蒼、彼氏頑張ってるよ?」

「うん。皆、まずは驚かせちゃったこと、ごめんなさい」


 ペコっと頭を下げる2人。ゆっくりと頭を上げ、蒼はマイクを両手で握り締めて話し始める。


「僕ね、これが初めての恋なんだ。Renは僕にないモノを沢山持ってて、逆に僕はRenが持ってないモノを持ってるらしいんだよね。足りないモノだらけの僕たちは、これから2人で補い合って皆に最高の一瞬を届けられるように頑張りたいんだ」


 そう語る蒼に、ファンは『素敵』や『頑張って』と声を贈る。

 次はRenの番。蒼の腰をギュッと抱き寄せて話し始めた。


「実は俺、もともと蒼のファンなんです。だから、ファンとして俺を許せない気持ちとかもわかるけど····つぅか俺がそっち側だったら絶対許せねぇけど、ファン全員から認めてもらえるくらい蒼を一生大切にするから、応援してください」

「お願いします!」


 Renと蒼は深々と頭を下げた。

 シンとしていた会場から、次々に応援する声が上がる。それを聞いた湊は、ファンへ『ありがとう』と喜びに満ちた笑顔を見せた。


「それではぁ、Renくんに1曲披露してもらいましょうか」

「は?」


 クールなRenから一転、目を丸くして湊に目配せをする。だが、何かを考えている様子で俯いている湊に助けは望めない。


(そういえば、僕ばっかり歌わされて煉の歌って聞いたことないや)


 煉を助けたい気持ちと、煉の歌声を聞いてみたい気持ちが葛藤する湊。けれど、考えるまでもなく後者が勝ってしまった。



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