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第57話

「失礼します。」

トントンと沈楽清は張勇の部屋をノックし、中にいるであろう彼に声をかけた。

沈楽清の声に応えるかのように、部屋のドアが開き、中にはあの日のメンバーがニヤニヤしながら沈楽清を待ち構えていた。

「ようやく、俺に謝る気になったんだって?」

ニヤニヤと笑う張勇に、沈楽清は「ええ」と神妙な顔をする。

「でも、先輩。先にタバコやお酒を飲んでいたと、認めてもらえますか?」

沈楽清の言葉にゲラゲラと笑い始めた張勇たちは、「馬鹿じゃねぇの」と沈楽清を口々に詰る。

「はいはい、やりました。これでいいか?証拠はないけどな。全部処分しちまったし、あの日以降はやってねぇよ。残念だったな、元ヒーロー様。」

「お前、本当にむかつくわ。決めた。裸で俺らに土下座しろよ。そしたら、署名をやめるように頼んでやってもいいぜ?お前んち、貧乏なんだろ。特待生でいるために、サッカーやらないといけないもんな。」

張勇は沈楽清に近づくと、制服のシャツを両手で乱暴に引っ張った。

思いきり引っ張られたことで、シャツのボタンがいくつか弾け飛ぶ。

「・・・これを見た上で、まだ謝罪が必要なら謝罪します、張先輩。」

張勇の蛮行に動じることなく、沈楽清は持ってきたノートパソコンを開き、動画を再生し始めた。

その内容に、徐々に張勇たちの顔が引きつり始める。

「お前・・・これ・・・」

「先輩。もう終わりにしませんか。先輩があの動画は間違いだったと、悪意のある編集だったと明日の全校集会で訂正してくれれば、私はそれ以上何も求めません。この動画も消去します。安心してください。まだ先生たちには話してな・・・」

冷静に話す沈楽清の言葉を最後まで聞かず、張勇たちは沈楽清に一斉に襲いかかった。

それに対し、沈楽清は抵抗せず、大人しく床に押さえつけられながら、相手がノートパソコンを壊す様をニヤリと笑って見つめる。

一方で、これで証拠が無くなったと思い込んだ張勇たちは、「ただですむと思うなよ」と低い声で沈楽清を脅すと、床に押さえつけた沈楽清を辱める目的でその服に手をかけた。

その様子を一人が動画に撮り始める。

わずかに抵抗する沈楽清の服を破るような勢いで力ずくで脱がせた彼らは、沈楽清を立たせて、腹部を何発か思いきりなぐる。

そして、その場にうずくまった沈楽清の短い髪を掴みあげると「土下座しろ」と迫った。

「お前、この動画は一生取っておいてやるからな!お前が有名になった後で、ネットで流してやるよ。嫌なら、一生俺らのいう事を聞くんだな!」


翌日の全校集会。

教師と生徒が全員集まる中、一人ジャージを着た沈楽清はその場から浮きまくっていた。

いつもはきちんと上から下まできっちり制服を着ている沈楽清が、朝からジャージで登校した時点で、驚いた担任から注意されたが、沈楽清が「汚してしまったので洗濯をしています。一着しかないのですみません。」と謝罪すると、彼の家の経済事情を思い出した担任は一つ頷き、今日一日彼がその姿でいることを許可した。

「以上で終わります。」

一か月に一度ある全校集会が滞りなく終わり、全生徒がほっと息をついてざわざわとしかけたところで、沈楽清は立ち上がると、悠然とした動きで壇上に上がった。

普段、誰よりも真面目で品行方正な沈楽清の突然の行動に、生徒たちはおろか教師陣でさえ度肝を抜かれてしまい、そのまま彼の行動に注視する。

全員から穴が空くほど見つめられた沈楽清はその場で深く一礼した。

「告発したいことがあります。」

沈楽清の声が体育館に響くともに、全ての電気が消される。

ゆっくりとスクリーンカーテンが下りてくると同時に、音声と映像が流され始め、何人かの笑い声と下着姿の女子生徒の姿が大きく映し出された。

全員何が起こっているのか分からず、ただただ呆然とその映像に見入る。

「キャアア」

映像が流れ続ける中、下着姿の女子学生達が次々と画面に映り、彼女たちは大きな悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込む。

しかし、そんな彼女たちを気に留める者など、誰もいなかった。

動画内では、沈楽清が、張勇がタバコを吸うのを止める様や、彼らを諫める様が流されていく。

そして動画は一旦終わり、場面が切り替わった。

その動画では、張勇達に裸にされた沈楽清が彼らに無理やり土下座させられるまでが、何一つ修正されることなく映っていて、その動画に多くの学生から悲鳴のような声が上がる。

「先生。今日はジャージですみませんでした。昨日このようなことがあって、制服がボロボロになってしまったので。」

両方で15分にも満たない動画が終わってしばらく経った後も、教師も生徒も誰ひとり反応できず、まるで時が止まったようにスクリーンを見続けていた。

「以上です。」

沈楽清の静かな一言で、ようやく呪縛が解けた教師達は、大きく動揺する生徒達を引率するため、その場で大きな声を出した。

「今、ここに映っていた者は全員残れ!あとは教室へ帰るんだ!!あと、今映像を流した者や電気を切った者、スクリーンを下ろした者!沈楽清を手伝った者も全員ここに残れ!!」


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