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ライ 襲撃者を圧倒する


「兄さんっ!? 大丈夫なの?」

「ああ。ユーノはオレの後ろにっ! 絶対に前に出ちゃダメだ。……行くぞ!」


 オレはユーノを背にし、黒フードの奴と切り結び始める。でもすぐに違和感を覚えた。それは、


(軽いっ! 身体が軽いっ! まるで羽でも生えたみたいだっ!)


 さっきまでの重圧をまるで感じないし、寧ろ普段より自然に動ける。


 これまで何度も何度も練習してきた剣の型。足の運び。戦いの進め方。それでも毎回全く同じように行くことはないし、相手だって無防備に受けてくれる訳じゃないのに、それが頭で思った理想通りに通る。……というより、


「せいっ!」

「くっ!?」


(この一撃は木剣で受け止めて、鍔迫り合いに持ち込ん……いや、距離を取ろうとしてくるな)


 相手の刺突を横にした木剣で受け止め、相手が素早く後退。そこを、


(このまま二歩追って一撃……いや違う。これは誘いだ)


 わざと一歩だけ追撃し、反転して相手が放ってきた蹴りを鼻先をギリギリ掠めない位置取りで回避。


 うん。やっぱりだ。


 さっきから相手の動きが分かって、それに合わせた動きが自然と頭に浮かび、尚且つ普段は出来ないような動きでも身体がそれに着いてきてくれる。これは良い!


「…………しっ!」


 黒フードの奴が牽制で数本の短刀を投げてきた。さっきユーノは一つずつ切り払っていたけど、俺にそこまでの剣速はない。なら、


……こうするっ!)


「はあああっ!」


 ブオンっ!


 想像するのは父さんのような剛剣。それを飛んでくる短刀を全て巻き込むように振り抜き、そのままバルコニーの外まで吹き飛ばす。


『……ほぉ。今の動き……そうか!』


 なんかブライト様が気持ちの悪い笑みを浮かべていたけど今はどうでも良い。続けて黒フードの奴が下から鋭く切り上げてきた短刀の軌道。それをオレは、


……このくらい出来るっ!)


 以前先生がジュードーの訓練で一度見せてくれた動き。相手が切りかかってきた時の返し技を、


 迫る短刀を木剣を軽く回すように受けて逸らし、そのまま相手の腕を巻き込むように自分の身体ごと捻って体勢を崩して、


 スパァンっ!


「か……はっ!?」


 足を払いながら相手を床に叩きつける。手応えあった!


 黒フードは受け身に失敗したのか息を大きく吐き、その勢いで顔を隠していたフードが捲れあがって……てっ!?


「お、女の子ぉっ!?」


 そこから見える素顔は、濃い青色の髪を肩までで切り揃えた目つきの鋭い女の子だった。


「……ちぃっ!? 離せっ!」

「ぐぅっ!?」


 一瞬動揺した隙を突かれて、そいつが倒れたまま放った蹴りがオレの脇腹に直撃。完全に押さえつける前に逃げられてしまう。そして、


「ぬうう……はあっ!」

「すまないっ! 圧を解くのに手間取ったっ!」


 そこに、少しずつ重圧から立ち直った人達が立ち上がって加勢に入ってくれた。遅いよと言いたいけど、そもそも何故オレだけまともに動けたのか分からないしな。あとレットもどうにか立ち上がっていた。そして、


「…………仕方ない。使


 ズズっ!


(……何だ?)


 目の前の黒フード……少女の雰囲気が少し変わり、嫌な雰囲気がし始める。さっき剣に纏わせていた闇が全身から放たれているようにも感じられ、こちらを刺すような殺気が襲う。


「兄さんっ!? これはダメっ!? 逃げてっ!」

「逃げないっ!」


 背中から聞こえる悲鳴じみた声に、オレはそのまま木剣を構え直す。


 さっきから……というか最初から、目の前のコイツは


 今もそうだ。何をしてくる気か知らないが、オレが避けたらそのままユーノに何かする。直感でそう感じた。他の人達もそう感じたのか、目配せして足に力を込める。何かの合図で一斉に飛び掛かるつもりだ。


 おそらくここが正念場。いつの間にか周囲のざわめきすら聞こえなくなり、静寂がこの場を包む。そして、それが爆発する瞬間、



「……今だっ!」

「「「うおおおっ!」」」

「スキル発動! 《|憤《・》




『はいスト~~ップっ!』


 そんなブライト様の落ち着いた声と、高い金属音のような音が響き渡ったのと同じくして、俺達と黒フードの少女の間に光で出来た半透明の壁がいきなりそびえ立った。


 勢いのまま壁にぶつかった人も居たけど壁はビクともしない。それだけでこれが並の頑丈さじゃないと分かる。さらに、


「……あれっ?」


 ついそんな声が漏れてしまったけど、何故か黒フードの方も、床から伸びた闇の鎖とでもいうような物に絡みつかれていた。あっちもブライト様の仕業……何だろうか?


 パチパチパチ。


『いやはや。派手に盛り上がったなぁおい! これは結構楽しめたぜ! だが流石にこれ以上やると楽しみが一つ消えかねないんでな。ここまででいったん止めにしようや』


 そんな拍手をしながら悠々とバルコニーに降り立つブライト様。皆が呆気にとられる中、ブライト様はこっちにまた嫌な笑顔を向け、その後黒フードの少女の方を向く。……いや、正確に言えばそいつを縛っている鎖が伸びる床を。


『それとな、そろそろ手駒に働かせるばかりじゃなくて、自分でも出てきたらどうだ? なぁ? ……




『……ふふっ。そうねぇ。こっちのお披露目はこんな所で良いでしょう』




 ズブブブ。


 それは、影の中から湧き出るように現れた。


 ゆったりとした真っ黒い衣を纏った、どこか儚げなくせに危なそうで、ブライト様に近い雰囲気を持つ女の人。


 ズササっ!


 それを見るなり、オレとユーノ以外のこの場の人達が膝を突いて頭を下げる。これは……つまり、


『よぉ! 。闇と影を司る者。“深淵を揺蕩う華”。女神ジャニスが管轄を離れてこんな所まで何の用だい?』


 さりげなく自分と同じ神族の一柱だと語るブライト様に、ジャニスというその神族様は静かな、でもどこかおっかない微笑みを浮かべてこう返した。





『ブライト。ふふっ! ワタシがアナタに会いに来る用件なんて決まっているでしょう? …………宣戦布告愛の告白よ』


 ……なんか今変な言葉が飛んできた気がするなぁ。



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