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六十二 制御不能

「!!」

修良から真実を聞かされて、他人の幸一は驚いたが、本人の冥清朗は眉一つも動かなかった。

「ち、違うんだ!清朗様は皆を忘れたわけじゃない!!」

その時、黒白無常くろしろむじょうは閻羅殿に駆けこんできて、修良の話を反論した。

「清朗様は、人間としての意識を抹消することを、最後まで抵抗したんだ!そのため、試練が失敗だと判定され、贖罪を強いられ、こんなところに追放されたんだ!!」

「この閻羅王が持っていた贖罪書はその証拠だ!」

白無常は一本の巻物を広げて、皆に見せた。

その巻物は彼たちが気絶した閻羅王から探り出したものだ。

「これは、清朗様の『仙骨』を削って作られたもの。これがある限り、清朗様の力は抑えられ、昔のことを思い出せないんだ!」

「まるで、俺の戸籍文書みたいだな……」

幸一は修良が自分の戸籍文書に施した術を思い出した。

「じゃあ、あなたたちは?昔のことを覚えているのに、なぜ玄天げんてん派に彼のことを知らせなかった?」

修良は二人に冷笑を投げた。

この二人は昔から冥清朗の補佐で、一緒に天に召されたそうだ。

問い詰められた黒白無常たちは、悲しそうに目を伏せた。

「そんなことをしたら、俺たちの人間だった頃の記憶まで消される……もう誰も清朗様を救えない……」

二人は頸元の服を引きずらした。二人の頸元に呪文のような模様が描いている。

呪文が赤く光って、二人の顔を照らす。

すると、二人の頭は長い舌が垂れている牛と馬になった。

「!!」

幸一ははっと息を飲んだ。

「清朗様に言われたんだ。せめて、俺たちだけでも人間だった頃のことを覚えてほしい……だから、大人しく降伏して、罪を認め、人間だった自分を捨てて、なんとか記憶を保存できた……」

「ふん、軟弱もの」でも、修良は二人に同情を示さなかった、「じゃあ、なぜ今は言えるようになった?」

黒白無常の態度が一変し、修良に懇願した。

「あなたの力を見たからだ!」

「あなたはすべてを滅ぼす力を持っている。この贖罪書を消滅してくれれば、清朗様は力を取り戻せる!」

「どうか、清朗様を……」

「断る」

修良はきっぱりと断った。

「!!」

黒白無常だけではなく、幸一まで驚いた。

「いかなることがあっても、数千年も大切な人を忘れたものは罰を受けるべきだ。彼を救うかどうか、私が判断することではない」

鉄のような硬い言葉を置いたら、修良は幸一にやさしい笑顔を見せた。

「幸一、冥清朗は宗主がずっと探している人だ。彼を宗主のところに届けるから、手伝ってくれる?」

「師匠が冥清朗を……分かった、手伝うよ!」

まだいろいろ疑問があるけど、師のためだと思うと、幸一はあっさりと承諾した。

「清、清朗様に何をするつもりだ!」

幸一と修良の暴力を身をもって実感した黒白無常は嫌な予感しかない。冥清朗を庇おうと前に出たが――

「牛と馬は黙っていろ」

修良は悪鬼の手を一振りして、二本の気流が黒い鎖となって黒白無常を縛った。


「すみません、清明神君様、同行をお願いできますか?」

相手が仙道の始祖なので、幸一はまず説得を試みた。

勝手に自分の過去を論じられても、冥清朗の表情が全く変わっていない。

しかし、意外にも協力的な態度を示した。

「あなたたちの話の真偽はともかく、私に人間界のと因縁がまだ残っていれば、清算を拒まない」

「じゃあ、さっそく――」

「その前に――幽冥界の仕事を遂行させてもらう」

冥清朗は修良に向かって、冷徹ではっきりとした声で言った。

玄誠実げんせいじつの魂を返してもらおう」

「?!父様の魂……先輩が?!」

幸一は清明神君のことを吞み込んだばかり、また衝撃的な発言に不意打ちをされた。

「そのものは玄誠実の魂を呼び出して、強引的に輪廻に投入しようとした。この幽冥界で、判官職以下の者は、死者の魂を呼び出す権限も力もない。でも、相手と魂の契約を持っていれば、あるいは、相手の魂を持っていれば、その死者を呼び出せる。つまり、玄誠実が失った一部の魂は、その天修良というものが持っているのだ」

「!!」

(やはり、誤魔化せないのか……)

修良は心底で自分の甘さをあざ笑った。

冥清朗は過去のことを聞いても全く動揺していない。しっかりと判官としての責務を覚えている。

(ここは、どう乗り越えればいいのか……幸一なら、私の言い訳を信じてくれるはずだ。うまい言い訳を考えよう。)

「あなたの父親の人生を変えたのも、恐れく彼だろう」

「ありえないよそんなこと」

修良の思った通り、幸一は冥清朗の話を信じなかった。

「先輩はそんなことをする理由もないし……」

「あなたのためだろう」

冥清朗は幸一の否定を断ち切った。

「俺のため?」

「見たところ、あなたは、そのものに厚い信頼を寄せている。彼の一言で、詳しい理由も聞かずにすぐ行動する。おかしいと思わないか?」

「別に、先輩は小さい頃から俺の世話をしていて、大切な家族のような人だ。誰よりも先輩を信頼しているのは当たり前のことだ」

「そう、その家族のような感覚だ」

幸一に再度否定されたが、冥清朗はゆっくりと推測を続けた。

「彼は、あなたの父親から、あなたとの『親子の縁』をもらったのだろう」

「親子の縁……!?」

「縁は人の魂に刻まれた印。縁をもらうのは、人の魂の一部をもらうことだ。玄誠実の魂に不足があり、そして、あなたを息子として認めていないのは、それが原因だ」

「!!」

(父が俺に無関心、死んでも俺を認めないのは、先輩のせい……?)

「そんなはずが、ないよね、先輩?」

どう返せばいいのか、幸一は分からない。

ただ不自然そうな笑顔を作って、修良に答えを求めた。

「もちろん嘘だよ」

修良のやさしい笑顔は変わらないまま。

「あんな生死を共にした恋人さえ忘れたものの話、信じるものではない。彼は大切な人を忘れた責任から逃れるために、私と幸一の関係を離間する嘘をついた」

冥清朗は冷静に玄誠実の肩を掴んだ。

「試してみるか?私は玄誠実の魂に刑罰を与えたら、あなたが持っている彼の一部の魂も反応するはずだ」

「へぇ、幽冥界役人の判官は自分の嘘をでっち上げるために、無実な魂に刑罰を与えるんだ。そんなことをしたら、あなたの幽冥界での贖罪期間が延長させるかもしれないよ」

修良は皮肉に笑ったら、黒白無常たちから反発があった。

「この恥知らず!!お前は絶対後ろめいたことをしたん!」

「そうだ!!清朗様は嘘をつくはずがない!!」

すると、彼らを縛る鎖の一部が口輪となり、二人を黙らせた。


幸一は不気味な胸騒ぎを感じた。

今の修良は何処か雰囲気が違う。

こんな修良を見たことがある。自分に戸籍文書のことを問い詰められたとき、そして、妖界の兵士を惨殺した後だ。

修良は、また何かを隠している。

しかし、それでも、冥清朗は赤の他人で、修良は大切な先輩。

やはり、修良を信じるべきだ……

幸一は一度拳を握りしめて、修良にうなずいた。

「先輩が嘘だと言ったら、俺は先輩を信じる。先輩は、父の魂の一件とは無関係だ!」

「ありがとう、幸一」

余裕そうに冥清朗たちに対応しているが、今の状況がまさに綱渡りだと修良は分かっている。幸一の認めを聞いて、心の中できつく張っている弦も少し緩んだ。

「愚かな子、あなたはその悪鬼に利用されているだけだ」

冥清朗は無表情に嘆いた。

「先輩の正体は悪鬼だったことはもう知っている。それはどうした?人を種族や出身で判断するのは間違っているんだ」

冥清朗の話を差別だと思った幸一は修良を庇った。

冥清朗は残念そうに頭を横に振った。

「あなたの愚かさは、『本当の自分』を知らないことだ」

「!」

幸一がまだ五里霧中だが、修良の瞳が瞬時に縮んだ。

冥清朗のこれからの話は事態を最悪な方向に導くのを予感した。

「ここであなたに会ってから、私は一度世界の源に戻って、あなたについて詳しく調べた。あなたの生死簿は、最初から存在しなかった。それはどういう意味なのか、分かる?あなたはこの世界で生れるべき人間ではなかった――」

「黙れ」

冥清朗が結論を言い出した同時に、修良の全身から黒い雷が迸り、冥清朗を襲った。

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