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七十六 意外なお見舞い

*********

三源高原、龍穴と呼ばれ、この世界で最も霊気豊富なところ。

重傷や霊的傷害を負ったものの静養に最適なところでもある。

修良は一軒の庭付き民泊を貸切して、意識を失った幸一と一緒に静養にした。

幸一が目を開けたのは三日後の朝。

「先輩……」

目覚めて最初の一声は、修良を呼んだ。

もちろん、修良はすでに幸一の目の前にいる。

「右腕……」

幸一はまだ鈍い動きで修良の右腕に手を伸ばした。

修良はその動きに従って、半分復元した手を幸一に任せた。

幸一は頬でその腕を擦って、枯れた木のような硬い触感を感じたら、安心して微笑んだ。

「今は思う。先輩は悪鬼でよかった……」

「よくない」

修良は苦笑いして、わざと眉をひそめた。

「幸一も知っているだろ?私はこの世界で実体を保つのは大量な生命の霊気を消耗する。腕一本は結構大きい、完全に戻るまで百年かかるかもしれない」

「大丈夫だ。全部じゃないけど、俺も結構の力を受け取った。全部、先輩のために使うよ。十日で治させる」

幸一は楽観的な笑顔をあげた。

幸一という光に照らされ、修良も小さな笑顔を咲かせた。

「それは残念だな、それを言い訳に、幸一を百年間の隠居に誘いたかったのに――」


その日の午後、修良はもう一度隠居の重要性を感じた。

「――そうすれば、こんなうるさい奴らに対応しなくて済む」

珊瑚と紫苑は民泊に訪れた。

静養が邪魔されないように、修良はわざと自分と幸一の気配を消した。こんなにも早く見つけられるとは思わなかった。

珊瑚はいつもの調子でニコニコしている。口でも負けはしない。

「うるさい奴らだなんて、心外だね。大事な友達に大事なことを伝えるために、わざわざお見舞いに来たんだ。それに、あの日に修良さんは紫苑さんの話しを聞いてあげれば、それがしたちもここまで来る必要がないのに」

「!」

紫苑は羽織を被って、珊瑚の後ろに隠れていてる。

修良から鋭い視線を感じると、更に身を縮んだ。

「先輩、紫苑さんをいじめないでください。全部俺がやらせたんだ!」

修良の不機嫌を感じて、もうすっかり元気になった幸一は前に出た。

「い、いいんです!庇わないでください!!」

なのに、紫苑はさっそく幸一を押しのけて、自分で修良に対面した。

「……」


「幸一は無意識に、魔を取り込んでいる?」

「はい、多分、そうだと思います……」

修良の厳しい視線に睨まれて、紫苑の口調がだんだん不確かなものになる。

それでも、何とか力を絞って、話の続きをした。

「あくまでおのれの憶測にすぎませんが……幸一様の心の暗い部分は、人々の邪念を取り込んでいるようです。その同時に、高い福徳で邪念を浄化し続けています。おのれは世界の意志から受けた『啓示』はこう言った――

『魔であるあなたが弱い理由は、この世の神の力が足りないから。魔の力が欲しいなら、まず神の力を求め、この世界が失われた神を目覚めさせるのだ』。

その意味はおそらく、幸一様は神にならない限り、この世の魔の力が集まらないということだと思います。なぜなら、人間である幸一様は、無意識に神の力で、魔の力となる邪念を中和しているから……」

「……俺は、無意識に邪念を吸収して、浄化している……?」

不思議と思うけど、幸一はすぐ納得した。

(本当だったら、多分……旧世界の天良鬼は人々の邪念によって悪鬼化したから、新世界で先輩が邪念に影響されないように、魂が無意識にやっているのだろう……)

修良も薄々とその訳に気付いて、優しい眼差しで幸一を見た。

でも、すぐに冷たい顔に戻って紫苑に問い詰める。

「では、なぜお前が平気なのか?幸一の心魔に吸収されず、逆に幸一の心魔の解放した。お前がその気になれば、幸一の心魔から力を受け取ることもできるのではないか?」

「っ!お、おそらく、おのれは、魔として自己意識を持っているからと……」

修良から強い脅威を感じて、紫苑はずるずると後ろに下がった。

でも、修良は彼を見逃さない。

「なるほど、つまり、その自己意識を潰せば、お前も浄化されるだろう」

「っ!!」

紫苑は真っ白な顔で倒れた。

「紫苑さん、大丈夫?修良さんはただ冗談を言っていると思うよ」

珊瑚は紫苑を支えようとしたが、紫苑はただ「おしまいです」と絶望的に呟いた。

「先輩、紫苑さんは悪いことをする魔じゃない!とても優しい魔だ!もう意地悪をやめてください……」

「幸一、紫苑さんを庇わうのはもうやめてくれ、逆効果だ」

「……」

同じよなことを珊瑚にも言われて、幸一は黙るしかなかった。

修良は紫苑に構わず、何か納得したように頷いた。

「でも、これで、ずっと引っかかったことが解けた。幸一は福徳が高いのに、よく人々の変な欲望を刺激する理由はこれか……」

「あれ、今まで修良さんは気付かなったの?てっきり幸一が毎日食べている米粒の数も把握してると思ったのに」

珊瑚はさりげなく口を挟んだら、修良の鋭い目線に睨まれた。

「幸一のことだから、そのくらいの魅力があると思っただけだ」

「せ、先輩!何が魅力だ!」

修良に褒められるのがよくあることだけど、さすが珊瑚たちの前で恥ずかしいと感じて、幸一の顔が赤く染まった。

「それは同意だ。幸一はもう少しそれがしに興味を示してくれたら、それがしも幸一にベタ惚れたと思う。あっ、でも、今もかなり惚れてるよ」

珊瑚は修良の険悪な視線を無視して、親密な動きで幸一の腕を組んだ。

「珊瑚も、なに変なことを……」

「だが――」

修良は再度口を開けると、いきなり雷が珊瑚に落下する。

珊瑚は反応早く身を引いたら、雷が地面に焦げた穴を開けた。

本気で打つつもりもないので、修良は話に戻る。

「それでも、この世の魔が全部幸一に吸収されていることは不可能だと思う。幸一は生れてから僅か十八年、それ以前に生まれた魔をどうにかすることをできない。紫苑さんも、幸一が生まれた以前に意識を持ったのだろ」

「よく分かりません。おのれの最初の記憶は、六月の雪の日、天寿国てんじゅこく野原連合やげんれんごうが戦う戦場……」

人間の国の事情に詳しい珊瑚は記憶を探って、紫苑の年齢を推測する。

「紫苑さんって、意外に若いね。野原連合ができたのは十数年しかなくて、六月の雪の日もかなりめずらしいものだ。確かに、六年前に一度……」

とんでもないことに気づいて、珊瑚はぱっと目を大きく張った。

「紫苑さん、六歳しかないのか――!?」

「!!」

「!!」

完全に予想外な事実の衝撃を受けて、その日のお見舞いは予定より早く終わった。


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