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第68話

「那央……」


「たった一つしか違わないのに、兄貴はどんどん大人になっていく。オレは……」


 言いかけて、那央は机に突っ伏すと顔を埋めてしまった。


「あの金髪ヤローが来た日……。正直オレ……自分が恥ずかしかったんだ。他人にあんな当たり前のことを言われるなんて……」


(瑛斗先輩が言ったことって……)


『海棠は忙しい中、御飯を準備して、食べずにお前の帰りを待ってたんだぞ。なのに、その態度はなんだ?』


 俺のために那央へ対して怒ってくれた瑛斗先輩の言葉を、俺は心の中でそっと思い出した。


「しかも兄貴がアイツ送って帰ってきたら、俺を頼らなかったのは、父さんが倒れたことを、自分にせいだって思い込んでいたからだ……なんて聞かされて……」


「あ、あの日は、急にそんな話されても那央も困ったと思う。ごめんな……」


 俺は手を伸ばし、顔を伏せている那央の頭をそっと撫でた。


 だが、そんな那央の頭を撫でる手は、すぐに払い除けられてしまった。


「さすがに、それはもうやめろって。一つしか違わないんだし、子ども扱いは……」


「一つしか違わなくても、俺にとって那央は大事な弟だろ?」


「……。だったら……!」


 那央は顔を上げると、必死な顔で俺を見つめてきた。


「オレにもちゃんと話してくれよ。アイツみたいに頼りにならないかもしれないけど、オレにだってできること……あるはずだ……」


「那央……」


(那央がこんなにも、俺のことを考えてくれていたなんて……)


 俺は胸がいっぱいになり、鼻の奥がツンとなるのを感じた。


「兄貴が父さんのことを、そんなに思い詰めているなんて、オレ思わなくて……。誰よりも近くにいたのに……」


「いや、俺こそごめんな。俺、ずっと那央の気持ちに気付かなかった。いや、気付かないフリして自分を勝手に責めてた。実は……瑛斗先輩に言われて初めて気付いたんだ。那央は頼って欲しいって思っているんじゃないかって……」


「アイツが……?」


「そう、瑛斗先輩が。突拍子もないこと言い出したり、まあ……頭にブラックホール飼ってんじゃないかっていうくらい変な人だけど、尊敬する部分も意外にあるんだ」


「意外にか。フッ……」


 吹き出した那央の顔に、笑みが零れた。


「あっ……」


(そういえば……)


 俺はずっと聞きたかったことを、那央に聞いておこうと思った。

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