「那央が剣道部に入ってないのは、やっぱり時間とかお金を気にしてなのか……?」
「まあ……。それが全部ってわけじゃないけど……。剣道は部活じゃなくてもできるし、あそこの道場なら金もいらないって言ってくれてるし」
「でも……。部活としてやりたいなら、やってもいいんだぞ? 那央は我慢しなくても……」
「いや、正直今は興味ない。高校行ったら、また考えるよ」
「そっか……。なんかごめんな……」
「謝るなよ。オレだって……。兄貴が家のために一生懸命何かしてくれているのは分かってた。でも、正直……。オレはどうすることもできなくて……。恥ずかしくて、逃げてた。ごめん……」
「いや、俺こそ……。ちゃんと那央に話すべきだった。こうやって、双子の面倒を頼んでいるわけだし、ごめんな……」
「……。なんかずっと、オレたち謝りあってばかりだな」
「喧嘩ばかりだって怒ってた母さんが見たら、きっと驚くぞ」
「それもそうだ」
「フッ……」
「ハハッ……」
俺と那央はどちらからともなく、声を出して笑いあった。
(なんだか懐かしいな……)
こんな風に笑い合えたのは、母さんが亡くなって以来初めてな気がして、懐かしさが込み上げてきた。
「なあ、兄貴。兄貴こそ、本当はもっと、その……。今日みたいに遅くなったり、練習とかしたいんじゃないか?」
「えっ……?」
「もっと、オレを頼って欲しい。その……一人じゃないんだし……」
母さんの葬式のとき、那央が言ってくれたことが静かに頭の中で思い出された。
『オレたちは、一人じゃないから……』
「那央……」
「まあ、オレも。剣道好きだから続けるけど、練習ない日は双子の送り迎えとかもするから……さ。頑張れよ」
俺は嬉しさから涙が溢れそうになり、我慢するために天井を仰いだ。
「泣くなよ。こっちが恥ずかしくなるだろ……」
「うん……。ありがとうな。那央……」
「か、カレー食べるだろ? オレ、あっためるから、兄貴はメシよそってくれよ」
居心地悪そうな那央は、慌てて椅子から立ち上がると、キッチンへ逃げるように向かって行ってしまった。
(ちゃんと話せましたよ。瑛斗先輩……。本当にありがとうございます)
きっかけをくれた瑛斗先輩に、俺は心の中で感謝を伝えると同時に、今日の出来事を誰よりも一番に報告したいと思った。