「リユニオンのみなさーん、そろそろ移動してくださーい」
ライブの開演時間が近くなったため、スタッフさんがライブ会場の控室まで、俺たちリユニオンのメンバーを呼びに来た。
(よしっ! 気合い入れてくぞ)
机に置かれた鏡の前で、俺は自分に気合を入れるため、自分の頬を両手で挟むようにして軽く叩いた。
(昨日、レンさんやサクヤさん、それにルカさんに教わった振付を完璧にこなして……)
俺はもう一度鏡を見て全身を隈なくチェックすると、壁際へ置かれたハンガーラックにかけられている新衣装を見つめた。
後半の新曲発表用に合わせて作られた制服風の新衣装は、俺のイメージカラーであるオレンジを、ブレザー下のパーカーの色と襟に取り入れてあった。
(あれは俺のために作られたもの……。だから……ステージで失敗なんて許されない……。那央も俺のこと応援してくれるって言ってくれた。大丈夫。リオンならいける……よし!)
気合十分に、俺は鏡の前で小さくガッツポーズをしてからメンバーと一緒に控室を出て、舞台袖に向かおうとした。
だが、俺は歩きながら、自分の身体に起きている異変に気が付いた。
(あ、あれ……。手が震えて……。俺、緊張してるのか……?)
震えを抑えようと、俺はゆっくりと足を止めて少し俯くと、胸の前で自分の手を重ねて握りしめた。
(大丈夫。俺はリオンだ。そうだろ?)
自分にそう言い聞かせて止めていた足を一歩踏み出すが、喉に異物があるような違和感から、息のしづらさを感じた。
(どうしたんだよ、俺……)
初めてのステージや新曲披露など、今まで緊張することは何度もあった。
だが、メイクや衣装に着替えて控室を出れば、自信満々のリオンになりきれて、緊張なんて治まっていた。
だから、こんなにも緊張が続いていること自体が初めてで、俺は焦りから心臓の鼓動がさらに速まったのを感じ、手にじわりと汗が吹き出した。
(と……とりあえず、みんなに追いつかないと……)
足を止めていたせいで、メンバーとの距離が空いてしまったため、俺は早歩きで必死に追いつこうとした。
(俺はリオンだ。カッコよくってなんでもできる、完璧なリオンだ。そうだろ?)
少しでも落ち着くよう、速まる鼓動と同じリズムで歩きながら、心の中でリオンになりきれるよう自分へ何度も言い聞かせ続けた。
(俺はリオンだ。俺は……)
海棠理央ではなく、リオンになれば何も怖くない。
だが、なんとかメンバーに追いついて、薄暗い舞台袖に到着しても治まらない震えと喉のつかえに、俺はさらに焦りを感じてしまう。
(嘘……。本当にどうしよう……)
焦れば焦るほど心臓の鼓動は速さと大きさが増していき、首に冷や汗がドッと吹き出すのを感じた。