「おい、リオン。大丈夫か? もしかして調子が悪いのか?」
遅れて到着した俺に違和感を感じたのか、レンさんは心配そうな顔で俺に近づいて来て話しかけてくれた。
「れ、レンさん……。お、俺……」
「あれ……? なんだ、まだリオンになりきれてないのか?」
ステージに立てば自信で満ち溢れている、いつものリオンなら考えられない話し方に、レンさんはいち早く異変に気が付いた。
「ちょ、ちょっと……。今日は……緊張してるみたいで……」
喉のつかえと手の震えから声も掠れる俺に、レンさんは頭の後ろを掻いて、どうしたものかと困った顔をした。
「あー……。昨日、ちょっと発破をかけすぎたかな……。って、リオン……。よく見たら顔色最悪だぞ! ちょっと来い!」
俺はレンさんに手を引っ張られながら、舞台袖の端っこに置かれていたパイプ椅子の前に連れてこられると、肩を押されて無理やり座らされた。
「どうしたんですか? レン」
急にいなくなった俺たちに気付いたハヤトさんが、レンさんの元に駆け寄ってきた。
「ハヤト。悪いんだけど、リオンに水を貰ってきてやってくれないか? それと……」
「……わかっています」
状況の深刻さを理解したように、ハヤトさんはレンさんが全てを言う前に深く頷くと、舞台袖で待機しているスタッフさんへ話しかけに行ってしまった。
ハヤトさんの背中を見送ったレンさんは、パイプ椅子に座る俺の目の前で膝をつくと、俺をそっと見上げてきた。
「リオン。お前、このままステージに上がれるのか?」
「も、もちろんです」
震えて掠れる声で返事をする俺に、レンさんは重たい溜め息をついた。
「こんなに震えているのに……か?」
膝の上で握りしめられていた俺の手に、レンさんの手が重ねられると、より手の震えが鮮明になった。
「……リオン。オレはこんな状態のお前を、リーダーとしてステージには上げられない。ケガにもつながるし、分かるな?」
「だ、大丈夫です。俺なら大丈夫……ですから……」
なぜこんなにも緊張しているか分からず、俺の頭の中はパニックだったが、ステージに立ちたいという気持ちだけは変わらなかった。
「リオン……」
「嫌です……俺は……」
レンさんに諭されるよう名前を呼ばれるが、俺は重ねられていたレンさんの手から逃げるように手を引っ込めると、そのまま自分自身を抱き締めた。
すると、訳も分からず涙が溢れそうになり、俺は涙を堪えようと必死に天井を仰いだ。
「いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ……」
「大丈夫です……。いけますから……」
リーダーとしてステージに上げられないと判断しているレンさんが、正しいことは分かっている。
こんな状態でステージに立てないのは当たり前で、レンさんがどれだけ心配してくれているかも頭では理解していた。
けれど、今立てないと俺は二度とステージに立てない気がして、焦りと不安が募るばかりだった。