「お願いです……。きっと……大丈夫……ですから……」
「リオン……」
上を向いたまま声を詰まらせる俺に、スタッフさんからペットボトルの水を受け取って戻ってきたハヤトさんも、そしてレンさんも、俺にこれ以上声をかけられずにいた。
「なに? どうしたの? リオン、調子悪いの?」
すると、異変に気が付いたルカさんが、俺たちに走り寄ってきた。
「ルカ……。リオンがあがっちゃってるみたいなんだ。昨日の俺たちが、プレッシャー与えすぎちゃったみたいで……」
「そ、そんなことありません!」
俺が大声を上げたせいで、リユニオンの他のメンバーはもちろん、舞台袖にいるスタッフさん全員の視線が俺に向けられるのを感じた。
だが、俺はそんなことも気にせず、必死に首を横に振った。
「昨日、あんなに一生懸命教えてもらったのに……。俺……オレ……」
「……。リオン、ちょっと来い」
「えっ……!」
「おい、ルカ……!」
ルカさんは椅子に座っていた俺の手を強く引いて俺を無理やり立たせると、すぐそばに置かれていた会議机まで俺を引っ張っていった。
「リオン。よく、この画面見ろ」
ルカさんが指差したのは、会議机の上に置かれたモニターだった。
そこに映し出されているのは、開演を今か今かと待ちわびながらソワソワし、それぞれのメンバーカラーに染まったファンの人たちだった。
「リオン。今、ここに映っている人たちは、なんのためにここへ来てくれていると思ってんだ?」
「えっ……?」
「いいから答えてみろ」
「そ、それはリユニオンを観に……」
「そうだよな? チケットはタダじゃないのに、わざわざお金を払ってオレたちを観に来てくれているんだ。日曜日の大事な時間を使って、全力でオシャレして……わかるな?」
「はい……」
静かに俺が頷くと、ルカさんは俺の肩に腕を回して、肩を抱き締めた。
「ファンの子たちはオレたちを見に来てんだ。元気を貰うため、そして応援するためにな。それなのに、そんな顔しかできないならステージに上がるな。嘘でも全力で笑えないなら……邪魔なだけだ」
「……!」
抱き締められていた肩からルカさんの手が離れていくと、ルカさんはレンさんの元に向かって行った。
「レンさん。とりあえず、前半はリオンなしでいきましょう」
「……ああ、そうだな」
「えっ……」
俺は状況の理解が追いつかないまま、その場で茫然と立ち尽くしてしまう。
「リオン。とりあえず、前半はステージには上がるな。後半に出られるかは、オレが戻ってきたときに判断する。いいな?」
「れ、レンさん! い、いやです! 俺……!」
必死にレンさんに駆け寄ろうとするが、レンさんと俺の間にサクヤさんが立ちはだかった。
「レンの命令は絶対だ。レンの邪魔をするなら引っ込んでろ」
「……!」
サクヤさんに言われ、自分が今どれだけ邪魔な存在なのかと気付かされると、頭から冷たいものを浴びせられたように、体温が下がったのを感じた。
「……。わかり……ました」
唇を噛みしめて、俺はそのまま、立って俯くことしかできなかった。
「よーし! みんな、リオンは体調不良で前半休みだ。穴はしっかり埋めていくぞ! さあ、円陣組むぞ!」
レンさんの掛け声でメンバーは一斉に舞台袖の真ん中に集まり、円陣を組んだ。
俺はその様子を、少し離れた場所から見つめた。
「さあ、今日も全力で行くぞ!」
「リユならできる!」
「いっくぞ! リユニオン!」
音楽が流れ、眩いライトの色がメンバーカラーに変化していく中、メンバーのみんながステージに飛び出すのを、俺はじっと見送ることしかできなかった。