(みんな、行っちゃった……)
メンバーの背中を見送り終えると、さっきまで緊張で強張っていたのが嘘のように、俺の身体から力が抜けて、冷静さを取り戻していた。
(……。とりあえず、ここにいてもな……。いったん控室にでも戻るか……)
身体の力は抜けていても、まるで鉛を付けたように重たい足を必死に動かしながら、俺は舞台裏から立ち去ろうとした。
そんな中、耳に届く音楽や歌声、そして声援もどこか自分とは違う離れた世界から聞こえている気がした。
『リオン……』
「……!」
だが、急に瑛斗先輩に名前を呼ばれた気がして、俺は足を止めて振り返るが、もちろんそこには瑛斗先輩の姿はなかった。
(なに、してんだろな……俺……)
自分に呆れながら手のひらを見つめると、まだ手の震えは治まっていなかった。
(このままじゃ、後半も……)
後半の一曲目は、昨日居残り練習した新曲の予定だった。
(せっかくレンさんたちと練習したのに……。俺が輝いているとこ見て欲しくて……。なのに……)
レンさんの言う通り、こんな状態でステージに立てるはずもなく、俺は息を吐き出して舞台袖をあとにした。
(控室……。いや、非常口から外階段へ出て、ちょっと外の空気でも吸ったほうが……)
俺は俯きながら控室の前を通り過ぎて、関係者出入口を出てすぐにある非常口へ向かった。
すると、内側から鍵が閉められ、重厚な鉄の扉で作られている関係者出入口の向こう側から、人が言い争っているような声が微かに聞こえてきた。
(なんだろう……)
俺はこのまま扉を開けるのはとりあえず危険かもしれないと判断し、扉に耳を近づけて聞き耳を立てた。
「困ります! ここからは、関係者以外立ち入り禁止なので」
「それはわかっています。しかし、リオンがステージに上がっていないなんて、何かあったとしか思えない! 安否だけでも、どうか教えてはもらえませんか?」
(この声……!)
聞き覚えのある声に、俺は大急ぎで鍵を回して関係者出入口の扉を開けて飛び出すと、そこには金髪碧眼を隠すために変装した姿の瑛斗先輩がいた。
「理央!」
「あっ、コラッ!」
帽子の中に金髪をしまって、黒のカラコンを入れた瑛斗先輩が俺の存在に気付いたとき、瑛斗先輩は俺に向かって手を伸ばして近づこうとしたため、その場にいたスタッフさんが慌てて瑛斗先輩の腕を掴んだ。
「リ、リオンくん! 危ないから中に入ってて! 誰かー! 警備員さん呼んでくれー!」
スタッフさんが俺のことを守ろうと、今度は瑛斗先輩を羽交い絞めにしたため、俺は慌てふためいてしまう。
「ご、ごめんなさい! 彼は俺の友人なんです。どうか離してあげてください!」
「えっ? あっ、ほ、本当に?」
「本当です! だから、離してあげてください!」
「そ、そういうことなら……」
ばつが悪そうに、スタッフさんは瑛斗先輩を羽交い絞めにしていた腕を離してくれた。
「瑛斗先輩、ちょっとこっちへ……」
俺は瑛斗先輩の手を引いて、すぐ近くにあった緑のランプが照らす非常口へ向かった。