非常口の扉を開けると、そこは外に面した非常階段の踊り場で、俺は瑛斗先輩の手を引いたまま踊り場に降り立って扉を閉めた。
そして、瑛斗先輩の手を離すと、俺は扉に背を向けて立ち、瑛斗先輩を見つめた。
「瑛斗先輩。どうしたんですか?」
「……。ライブが始まっても姿がないから……。何かあったんじゃないかと心配で、気付いたらこんなところに……」
(瑛斗先輩が俺に向かって普通に話せてる……。そういえば、さっき俺のこと理央って呼んでた……)
髪型やメイクはリオンの格好をしているはずなのに、瑛斗先輩の目にはリオンとしてではなく、海棠理央として映っていることは明白だった。
俺は足から力が抜けて、扉に背中を預けながらズリズリとその場に座り込んでしまった。
「理央……!」
心配そうな表情で、変装用のマスクを顎までずらした瑛斗先輩は、俺に慌てて一歩近づこうとしたが、俺は顔を逸らしながら手を伸ばして制止させた。
「瑛斗先輩……。今、俺と普通に話せてるってことは……。先輩の目には俺がリオンだって、映ってないってことですよね……。ちゃんと、リオンの格好してるのに……」
「……!」
俺に指摘され、瑛斗先輩は初めて気づいたように驚いて、体を硬直させた。
「ねえ、瑛斗先輩……。俺、リオンになれないんです。自信の満ち溢れたリオンに……。手の震えが止まらなくて、声が出ないんです。こんなの初めてで、俺、どうしたらいいか……」
必死に口元には笑みを浮かべながらも、俺の心は不安とショックで押しつぶされそうで、また目から涙が溢れそうになる。
「どうしよう……。このままもう、ステージに立てなくなったら……。せっかく、瑛斗先輩を目指そうとしたのに……。もっと、俺のこと見て欲しいって思ったのに……。俺……オレ……先輩に……」
「理央……!」
瑛斗先輩は俺の名前を叫んで膝をつくと、肩を引き寄せて俺を抱き締めた。
「えいと……せんぱ……」
抱き締められている腕に力が込められたのを感じると、瑛斗先輩の大きな体に包み込まれている気がして、安堵から自然に全身の力が抜けていった。