「大丈夫。理央なら、大丈夫だ」
まるで泣いている子どもをあやすときのように、瑛斗先輩は俺に優しく声をかけながら俺の頭をそっと撫でた。
「え……いと……せんぱい……」
俺は思わず唇を噛みしめて、瑛斗先輩の背中に腕を回し、離れたくないと必死にしがみついた。
息が止まり、胸が震えた。
そんなとき、瑛斗先輩の厚い胸板から心臓の音が俺の耳にはっきりと聞こえてくると、もっと聞きたいと、自然に瑛斗先輩へと顔を押し付けていた。
「理央……」
瑛斗先輩が少しだけ身体を離すと、俺の顎を手で軽く持ち上げる。
少しだけ上を向かされると、俺を覗き込むように見つめる瑛斗先輩の瞳に、俺が映し出されていることに気が付いた。
いつもの碧ではなく、変装用のカラコンで黒い瞳になっていたが、瑛斗先輩に見つめられると、そのまま俺のことを見つめ続けて欲しいと思ってしまう。
(その目でずっと……)
吸い込まれそうな瞳から目が離せずにいると、瑛斗先輩は俺に顔を寄せて、額にそっと唇を落とした。
そのままお互いの存在を確かめるように額と額を合わせると、今度は額だけでなく、目元や頬、鼻先にも啄むように唇を落とされた。
壊れものに触れてくるような優しい瑛斗先輩の唇は、俺自身が瑛斗先輩の大事な宝物のように感じさせてくれた。
「えいと……先輩……」
何かを確認するように瑛斗先輩の名前を呼ぶ声が震えていたのは、緊張でも恐怖からでもない。
泣きたくなるほど、胸の中が幸福感でいっぱいだったからだ。
「理央……」
俺を見つめる瑛斗先輩の瞳がゆっくりと俺に近づいてきた。
俺は自然と目を閉じると、瑛斗先輩の唇が俺の唇に、そっと触れるように重ねられたのを感じた。