「理央……」
「ありがとう、瑛斗先輩。俺、瑛斗先輩の胸が張り裂けたら困ってしまうので、やっぱりカッコイイままのリオンでいられるように頑張りますね」
俺の中で本当の決意が固まった。
「ねえ、瑛斗先輩……。お願いがあるんです……」
「お願い……?」
「俺に……瑛斗先輩のお守りをくれませんか?」
「お守り……? すまないが今、そんなものは持ち合わせていなくて……。この辺りに神社はあるのか?」
非常階段の踊り場から身を乗り出すようにして辺りを見渡す瑛斗先輩に、俺はゆっくりと首を横に振ると、一歩近づいて瑛斗先輩を見上げた。
「り、理央……?」
見上げる俺の真剣な表情に押されるように、半歩下がって戸惑った表情を瑛斗先輩は浮かべていた。
俺は自分の首の後ろに手を回して、チェーンネックレスの留め具をそっと外した。
「これを、瑛斗先輩から俺の指につけてくれませんか?」
瑛斗先輩にもらった指輪をチェーンネックレスから外して、俺は手のひらに乗せた指輪を瑛斗先輩に差し出した。
「瑛斗先輩が俺のために何日も部屋に篭ってデザインを考えていたって、美玲さんから聞きました。俺のことを……リオンのことを考えてデザインして、プレゼントしてくれたんですよね?」
「ああ……。この指輪には、私のリオンへの思いが全て込められている」
頷く瑛斗先輩に、俺はさらに瑛斗先輩へ一歩近づいた。
「俺、瑛斗先輩がこの指輪をつけてくれたら、もう一度リオンに戻れそうな気がするんです……だから……」
「リオンに……なってしまうのか……」
寂しげに不思議なことを言う瑛斗先輩に、俺は首を傾げる。
「瑛斗先輩は、俺がリオンになって欲しくないんですか?」
「そうではない。そうではないのだが、わからない……」
「わからない……? おかしな瑛斗先輩。けど、俺はリオンになりたいんです。俺は瑛斗先輩に見てもらいたい。これからもずっと。だから、俺は続けます。お願いだから、俺をリオンにしてください……」
俺は無理やり瑛斗先輩の手のひらに指輪を握らせると、指輪を嵌めやすいよう指先を真っ直ぐ伸ばして、瑛斗先輩へ指先を差し出した。
瑛斗先輩は少し俯くと、何かを決意したようにゆっくりと顔を上げ、俺の手を下から支えるように手を添えた。
「り……」
微かに瑛斗先輩が何かを言いかけたように聞こえたが、俺の耳にはそれ以上届くことはなかった。
瑛斗先輩が指先で指輪を持つと、俺の右手の中指にそっと嵌めてくれた。
そして、祈りを込めるように、俺の指に嵌めた指輪へ優しく唇を落とした。
「ありがとう……」
俺はそう呟いて、指輪から離れていく瑛斗先輩の頬に手を添えて真っ直ぐ見つめた。
「いってくるな」
(俺はリオンだ……だから……)
「俺だけを見てろよな」
瑛斗先輩のおでこに、俺は啄むように軽く音を立ててキスをすると、俺は瑛斗先輩をその場に残して、控室へ走って向かった。