ルカさんは俺の首から腕を離すと、レンさんとサクヤさんに向かって呆れたように肩を竦めた。
「二人はもうリユニオンの公式なんで、どうぞご勝手に。みんな! 実はオレとリオン。最近、超仲良くなったんだ。その辺の話は、後日の配信で話すかもしれないから、みんな楽しみにしててよね。な? リオン」
ルカさんに目で合図されて、俺は頷いてから観客席に手を振った。
「よーし! じゃあ、みんな! そろそろ準備はいいか? それじゃあ、聴いてくれ! 新曲は『また、会えたね』だ!」
レンさんの合図でステージ上の照明が一度落とされ、俺は暗い中、慌てて中央から端っこの立ち位置に戻った。
顔を上げて俺が見つめる先には、ステージの中央に立ち、センターを務めるレンさんがいた。
そして、右隣にはサクヤさん、左隣にはルカさんが立っていた。
その奥に見える観客席では、先程まで一面オレンジにしてくれていたペンライトの色が、それぞれの推しの色に変えられた。
(俺は……あそこを目指すんだ……! そして、会場中をオレンジに染めてやる!)
今はまだ遠いあの場所を、改めて目指そうと心の中で決意を固めると、心臓の鼓動が少しだけ速くなったのを感じた。
(落ち着け……大丈夫だ。俺にはお守りがあるだろ?)
息をゆっくりと大きく吸い込み、俺は右手の中指に視線を向けて指輪をじっと見つめた。
(瑛斗先輩……。少しだけ、力を貸してください)
心の中でそう唱えながら、指輪が嵌められた右手の中指を口元までもっていき、俺は指輪にそっと唇を触れさせた。
(さあ、いこう……)
新曲のイントロが大音量で流れ始め、ステージ後ろに設置されている大型のスクリーンに映像が映し出されると、ステージには眩いほどの照明が注がれた。
レンさんのソロから始まった新曲は、激しく立ち位置が変わるフォーメーションダンスをバックダンサーが務め、サビ部分では全員揃って歌って踊る構成になっていた。
サビ部分まで、俺はバックダンサーとして精一杯、メインメンバーが映えるように踊った。
(ここはレンさんが教えてくれたターン。次はサクヤさんが教えてくれたコツを使って……)
昨日教わったばかりの振付のコツを思い出しながら、俺は決して下を向くことなく、顔を上げながら必死に歌って踊り続けた。
そして、迎えたサビ部分。
ほんの一瞬、俺が一番先頭に立つことで観客席が一番近くなるとき、俺は観客席の一番後ろを見つめた。
観客席は暗い上に満員で、本当ならたった一人を見つけるのは難しい状況だった。
けれど俺は、いつもの壁際最後尾で、オレンジ色のペンライトを持つ瑛斗先輩を見つけ出した。
(いた。瑛斗先輩だ。俺を見てくれてる……)
俺は瑛斗先輩に感謝を込めて、ほんの一瞬だけ、いつもの心臓を打ち抜くファンサを向けた。
(瑛斗先輩、喜んでくれたかな?)
そう思いながら、元の立ち位置に戻っていくとき、いつもなら嬉しそうに激しく振られるペンライトの明かりが、今日はなんだかおとなしいように思えた。