「今日のリオンくん、すごくカッコよかったよ!」
「本当に? ありがとな! また会えるよね? はい、ハイタッチ!」
「リオンー。前半いなかったから心配したよー。大丈夫なの?」
「平気、平気! 心配かけてごめんな。必ず、また会いに来てくれよ! はい、ハイタッチ」
「いつのまにルカさんと仲良くなったの? もう! 配信、楽しみにしてるね!」
「今は秘密。でも、ルカさんが言ってた通り配信で話すかも。そしたら、また会えるね。はい、ハイタッチ」
ライブ終了後、ステージから下りたメンバー全員が廊下で一列に並び、ファンの人たち全員をハイタッチでお見送りするのがリユニオンの恒例行事だ。
俺は今まで、ファンの人には推しがそれぞれいるから、その順番待ちで仕方なく俺に話しかけたり、ハイタッチをしてくれているものだと内心どこかで思っていた。
なので、ファンの人たちから声を掛けてもらっても、何を話せばいいか正直よくわからず、同じことしか言えなかった。
だが、今日は嬉しさと喜びを、一人一人にちゃんと俺から伝えたいと思った。
(俺の名前、こんなにたくさんの人が覚えてくれてるんだ……)
みんながリオンと呼んでくれて、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、ときには心配をしてくれながらハイタッチをしてくれるファンの人たちに、俺は改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。
(あっ……。そろそろ終盤かな……。ということは……)
いつもライブ会場の最後尾にいる瑛斗先輩は、ハイタッチの順番も最後が多かった。
そのため、俺は終わりが近づくにつれて少しソワソワしてしまう気持ちを抑えつつ、瑛斗先輩の順番が回ってくるのをじっと待った。
(あ、見えた……!)
一際目立つ高身長で、頭一つ分以上は列から出っ張ている瑛斗先輩の姿は遠くからでも分かり、俺は思わずドキドキしてしまう。
(どうしよう、なんて言おう……。今日もありがとう? いや、そんなありきたりの言葉じゃ……)
「リオン……? どうしたの? やっぱりまだ、調子悪いの?」
「あっ。ごめん、ごめん」
瑛斗先輩に何を言おうか迷ってしまい、俺は無意識に考え事をしてハイタッチの手を止めてしまっていた。
(まずい、ぼーっとしてた。今は目の前のファンの人を大事にしないと失礼だろ)
「し、心配かけてごめんな! もう大丈夫だから、また会えるよね? はい、ハイタッチ!」
必死に俺が取り繕っていると、瑛斗先輩が急にハイタッチの順番を待つ列から抜け出したのが横目で見えた。
(えっ……?)
驚いた俺は慌てて瑛斗先輩の姿を探すために辺りを見渡すと、まるで、俺のことを視界に入れないかのように出口を真っ直ぐ見つめたまま、ハイタッチ列の横を足早に過ぎ去って行った。
(なんで……)
瑛斗先輩はそのまま外に出て行ってしまい、戻ってくることもなかった。
(なんか、急ぎの用事でもあったのかな……。でも……)
胸騒ぎがして、本当は追いかけて確かめたかったが、目の前にはハイタッチを待つファンの人たちが列をなしている。
「今日はありがとう! また会いに来てくれよな! はい、ハイタッチ」
俺はただ茫然と状況が理解できずに、笑顔を必死に浮かべてハイタッチを続けることしかできなかった。