「絶対におかしい……。完全に避けられてる……」
「何がおかしいって? その卵焼き、よくできてんじゃん?」
昼休み、いつものように屋上の塔屋の上で、俺と和兄は向かい合ってお弁当を食べていた。
だが、お弁当に入れた卵焼きを箸で掴んだ時、ふいに瑛斗先輩のことが頭に浮かんできてしまい、俺は卵焼きを睨みつけてしまった。
「……。和兄、俺の卵焼き食べる?」
「おっ! いいのか? ラッキー」
俺は箸で掴んでいた卵焼きを和兄のお弁当に移そうとするが、和兄は俺に向かって目を瞑り、大きく口を開けていた。
「……。言っとくけど、あーんとかしないよ」
口を開けたままの和兄を無視して、俺は和兄のお弁当に卵焼きを置いた。
「ちぇ、なんだよ。どうせ、月宮先輩にはしてるんだろ?」
「してないって……。だいたい、全然会ってないし……」
「そうなのか?」
(そうだよ!)
心の中で苛立ちの声を上げるが、俺は深い溜め息をついて、気持ちを逃がすように空を見上げた。
俺のどんよりした気持ちとは裏腹に、見上げた空は絵に描いたような晴天で、俺は日差しの眩しさに顔を歪めた。
(あー、もうっ!)
気を取り直して、俺はお弁当を口元に持っていくと、一気に掻き込むように、ご飯を口いっぱいに詰め込んだ。
「なんだー喧嘩か? 月宮先輩相手に喧嘩するなんて、理央もやるなー」
掻き込んだご飯を噛んで飲み込んでから、揶揄う口ぶりの和兄へ俺は首を横に振った。
「別に……喧嘩なんかしてない。ただ……。一方的に避けられているだけ!」
「へー。どんな風に?」
「どんな風って……」
実はゴールデンウィークの連休を挟んだとはいえ、もう二週間近く、瑛斗先輩と言葉を交わしていなかった。
しかも、ライブ終わりの、ハイタッチ列から瑛斗先輩が抜け出したあの日からだ。
俺は理由を聞きたくて、ライブの翌日から、なんとか瑛斗先輩と話す機会がないかと色々模索した。
噂の一件もあったため、俺から安易に瑛斗先輩の教室を尋ねるわけにもいかず、最初はなんとなく、瑛斗先輩の教室の前を通ってみたりしてみた。
けれど、何度試しても気づかれないまま失敗に終わったため、今度は瑛斗先輩のクラスの時間割を調べて、移動教室のタイミングを見計らった。
廊下で偶然を装って、すれ違う作戦だ。
瑛斗先輩の周りにはいつも人で溢れているため、話しかけられないのは当然だったが、俺の存在には気付くだろうと思っての作戦だった。
しかし、何度すれ違っても瑛斗先輩から話しかけてくることはなかったため、最後は少し離れた場所からじっと、何か言いたげに見つめる作戦へ変えてみた。
今思えば、どこかの乙女かストーカーにしか見えない行動だったが、俺はそんなことを気にするのも忘れるほど必死だった。
(それなのに……!)