「聞いてくれよ、理央ー。実は最近、じい様が趣味でやってる道場を覗きに行ったんだけど、そこに、まー可愛げのないヤツがいてさー。初対面で年下なのに敬語も使ってこないし、ずっとオレのこと睨んでくるんだ」
「へー……。和兄に対して、初対面でそんなことする人がいるなんて珍しいね。単純に和兄が忘れているだけで、昔、和兄が気に障ることしたんじゃないの?」
俺の言葉に、和兄は雷で打たれたようなショックを受けた顔をした。
「理央……。お前、ズバッと酷いこと言うな……。さっき、オレのことをお兄ちゃんみたいで嬉しいって言ってくれた……あれは嘘だったのか?」
「別に嘘じゃないけど……。考えてもみてよ。初対面で和兄を嫌う人なんて、今までいないでしょ? だから単純に初対面じゃないんじゃない?」
「うっ、うーん……」
俺の肩を掴んでいた手を離し、指先でこめかみを押さえて目を瞑りながら考える和兄だったが、限界を迎えたように大きく息を吐き出した。
「あー無駄だ、無駄。あんなヤツのために、時間を割くほうが間違ってる。って……ん? 理央……?」
和兄が俺に顔を近づけると、俺の前髪を指に絡ませて掻き上げ、俺の目を心配そうに覗きこんできた。
「目の下にくまができてるぞ。もしかして、瑛斗先輩の件で眠れてないのか?」
「えっ? 嘘? そんなに酷い?」
「ああ、心配になるくらいにな。っで、どうなんだ?」
「どうって……。別に瑛斗先輩は関係ないよ。テスト勉強してるだけ。だから、眠れてないというより、寝てる時間がないといったほうが正しいかな」
瑛斗先輩の件も寝不足の要因の一つではあるが、今は寝る時間さえ惜しい状況だった。
それは、いよいよ来週から中間テストが始まるからだ。
月宮学園に入学して初めての試験であり、学費を免除されている特待生の俺は、絶対に結果を残さなければならない。
主席死守とまでは言われていないが、来年の特待生継続条件として、在学中の優秀な成績と言われている以上、主席を目指すつもりで頑張らなければならないのは当然だ。
そのため、家事や双子の寝かしつけが終わってから、いつもの予習復習に加えて、テスト対策が追加された。
なので、どうしても睡眠時間を削ることになってしまう。
しかも、最近少しずつだが俺のファンが増えてきたおかげで、レンさんや他のメインメンバーのソロ曲に、コーラスやバックダンサーで入る予定にもなった。
勉強に加えて振付の練習に歌、発声練習など、ひと月前の入学したばかりとは、比べものにならないくらい忙しくなっていた。