「寝る時間がないって……。ちょっと、見せてみろ」
和兄はさらに俺へ顔を近づけると、俺の下瞼を親指で軽く下に向かって引っ張った。
「白い……。こりゃ、完全に貧血だな。理央。今、気持ち悪かったり、めまいとかしないか?」
「別に大丈夫だよ。もう、和兄は大袈裟だなー」
おでこに手を当てられて、和兄に熱の有無を確認されながら俺は笑って誤魔化すが、和兄は真剣な顔で俺を見つめてきた。
「理央は特待生だから、たしかにテストの結果を無視するわけにもいかないのはわかる。けど、身体壊したら元の子もないぞ」
「うん……。それはそうなんだけど……」
(でも、この忙しさがずっと続くわけじゃないんだし。とりあえず、中間テストさえ終われば……)
俺にとって、今は学校とアイドル活動、どちらも大切だからこそ、今が踏ん張りどころだと思う。
(けど、もし特待生じゃなくなったら……)
学費免除があるから、私立である月宮学園へ通えているのであって、もし特待生でなくなってしまったら、俺はこの学園に居続けることが出来なくなってしまう。
(そうなったら……俺は……)
瑛斗先輩と和兄との接点がなくなってしまうと思うと、俺は淋しくて心が落ち込んでしまった。
「おいおい、どうしたんだよ? 悲しい顔して。やっぱ、疲れてるのか?」
和兄が言う通り疲れているようで、思考が暗い方向ばかりに向かってしまいそうになり、俺は頭を空っぽにするため、自分の頬を軽く挟みこむように叩いた。
「和兄の言う通りかも……。ちょっと、疲れているみたい。まだ昼休みも時間あるし、今のうちに保健室で寝てこようかな……」
「ああ、そうしとけ。ほら、なんなら保健室までおぶってくぞ」
いつの間にか食べ終わっていたお弁当を片づけ終えていた和兄は、しゃがんだまま俺に背中を向けた。
「い、いいよ。それに、和兄はこの後、生徒会室に行かなきゃいけないんでしょ?」
「別に保健室寄ってからだって遅くないって。貧血状態の理央を一人で行かせるほうが、よっぽど心配だ。途中で倒れたらどうすんだ?」
「大丈夫だって。今、ご飯も食べたんだし。それに……その……誰かに見られても困るし」
和兄の厚意はありがたかったが、三王子である和兄と一緒にいるところを誰かに見られるのは、やっぱりリスクが高いと思い、気が引けてしまった。
「あー……。じゃあ、途中まで! 誰かいたら距離とるし! なっ?」
「う、うん……」
強引に押し切られた気もするが、立ち上がって手を差し出してくれる和兄に、俺は仕方なく頷いた。
「ほら、いくぞ。あ、でも無理するなよ」
「もう、大丈夫だって。俺も男だよ。和兄は心配性だなー」
お弁当箱をしまった弁当袋を手に持ち、俺は和兄の手を取って立ち上がると、屋上を後にした。