「ねっ、ねっ! まってたの、えらい?」
「えらい?」
「あ、ああ。えらい、えらい」
撫でやすいように頭を向けてくる双子に、俺はもう一度改めて頭を撫でた。
「んっ? ごはん……?」
ふと、頭を撫でる手を止めてダイニングテーブルに目を向けると、たしかに食べ終わった食器が重ねて置かれていた。
「ごはんも食べたのか……?」
「うん。かずやくんがつくって、みんなでたべたよー。おいしかったー!」
「和兄が……?」
(和兄、料理できるんだ。知らなかった……)
和兄の家にはお手伝いさんがいることを知っていたため、和兄が料理をできるとは思ってもみなかった俺は、思わず驚いてしまう。
「あとね! えっとね! えいとおうじは、たかいたかい、いっぱいしてくれたんだよー!」
「ずっと、えいとおうじとあそんでた! りおくん、おねむだから、おこしちゃだめだよって」
「瑛斗……先輩が……」
瑛斗先輩の名前を聞いて、俺は思い出したように胸が少しだけ締め付けられたが、心の中で打ち消すように首を横に振った。
「二人とも……楽しかったか?」
俺は双子に目線を合わせるために、その場に膝をついて笑いかけた。
「うん。とっても!」
「ねー!」
玲央と真央は二人で顔を合わせてると、本当に嬉しそうに笑った。
「そっか……」
花が咲いたように満面な笑みで笑う二人が急に愛おしくなった俺は、無意識に、双子を引き寄せるようにして腕の中で抱き締めた。
「りおくん、どうしたのー?」
「どこか、いたいの?」
「……。なんでもない。なんでもないんだ……」
愛おしさと同時に、倒れて心配をかけてしまった自分の不甲斐なさに落ち込みたくなるが、俺は必死に笑顔を取り繕った。
(よかった……)
心の中でそう思ったのは、父さんが会社で倒れたと連絡を受けて心臓が止まりそうになったときの気持ちを、二人が知らずに済んだと思えたからだった。
(瑛斗先輩と和兄のおかげだな……)
俺は双子を抱き締める腕に、そっと力を込めた。
「よーし! いっぱい遊んだみたいだし、そろそろ、おもちゃのお片付けしよっか?」
「えー、やだー!」
「やだやだー!」
よほど和兄と瑛斗先輩が遊んでくれたのが楽しかったようで、足元にはこれでもかというほど、無数のおもちゃが散乱していた。
だが、おもちゃを片づけると楽しい時間が終わってしまうのが分かっているのか、俺の腕の中で首を横に大きく振りながら、双子は必死に片づけするのを嫌がった。
「いいのか? そんなこと言ってると、瑛斗王子も和也くんも、また来てくれなくなっちゃうぞ。玲央くんと真央ちゃんのおうちは、汚いんだーって。もう、二人と遊べなくなったら嫌だろ?」
双子を抱き締める腕の力を緩めると、双子は二人で手を繋いで俯き、拗ねたように唇を尖らせながら頷いた。
「うん」
「うん……。やだ……」
「よし。それなら、どっちが多くおもちゃを片付けられるか競争だな。いくぞー。位置についてー! ヨーイ、ドン!」
「わーい!」
「いそげー!」
俺がスタートの合図代わりに手を叩くと、先程までの拗ねた顔が嘘のように楽しそうな笑顔を浮かべながら、双子は絨毯の上に散らばった無数のおもちゃに向かって走っていった。