(こういうことを、青天の霹靂って言うのかな……。ん……?)
呑気に俺はそんなことを考えていると、和兄の口ぶりから、ある可能性に気が付いた。
「那央……。もしかして今日が初めてじゃなくて、和兄と最近、道場で会ったりした?」
「あ? ああ。オレも最近まで知らなかったけど、どうやら先生の孫がコイツらしい。世の中って狭いな」
ぶっきらぼうに言いながら、膝をついたままでショックをまだ受けている和兄を、那央は睨みつけながら指差した。
(ああ……。今日、お昼に和兄が話していた、初対面なのに睨みつけてきた年下の子って、那央のことだったのか)
どうやら、和兄と那央の十数年ぶりの再会は感動とはほど遠く、俺の知らないところで最悪な形を迎えていたらしい。
「それより、大丈夫なのか? 理央が寝ちゃって、このまま寝かせたままにしたいって、あの……月宮って人に連絡もらったけど……。なんかあったのか?」
先程までの怒った顔は消えて、眉を少しだけ下げて心配そうな顔を俺へ向ける那央に、俺は胸の前で両手を振った。
「大したことじゃないって。ちょっと貧血で倒れたら、寝ちゃって起きなかったみたいでさ……。実はさっきまで、ぐっすり寝ちゃってたんだ」
「貧血……? 倒れたって……。だ、大丈夫なのか?」
那央の顔色が明らかに変わり、俺に詰め寄ってきたかと思うと両腕を掴まれた。
掴まれた腕から、俺は微かに那央の手が震えているのを感じた。
(那央……)
「那央。俺は大丈夫だよ。大丈夫」
優しくゆっくりと、まるで言い聞かせるように伝えると、俺の両腕を掴んでいた那央の手はそっと離れていった。
「なおくん……?」
「かなしーの……?」
足にしがみついて、那央の顔を必死に見上げる双子に、那央は微かに笑みを浮かべた。
「ちげーよ。てか俺、そんなこと聞かされてなかったぞ。補習もあったし、あの月宮って人なら大丈夫だろうって、こいつらのことも頼んじまった……」
(そっか。瑛斗先輩が那央に連絡とってくれたんだ。そっか……)
目の前で倒れた人間がいて、瑛斗先輩はほっとけるような人ではないと分かっている。
だが、どこかでまだ、俺のことを特別に思ってくれての行動かもしれないと、期待して嬉しくなってしまう自分がいた。
「そうだったんだ……。倒れたっていっても、本当に寝不足なだけだし。寝たらスッキリしたんだ」
「そっか……。なら……」
那央はそう言い残して、足にしがみついていた玲央と真央を片手でそれぞれ器用に抱き抱えると、瑛斗先輩の元に向かって行った。
「本当にありがとうございました。理央のこと……。双子の迎えや面倒まで……。ご迷惑をおかけしました」
双子を足元に下ろして、瑛斗先輩に向かって深々と那央は頭を下げると、それを見ていた双子も那央のマネをして、瑛斗先輩に揃ってお辞儀をした。
「しました!」
「しましたっ!」
「いや、私はなにも……」
急に謝られて畏まった瑛斗先輩は、その場で慌てて正座をすると背筋を伸ばした。
「オレにはなにもなしですか……。しかも、敬語使えるし……」
瑛斗先輩と那央のやりとりを見て、拗ねたような声を漏らした和兄を、那央は思いっきり睨みつけた。
「おい。そういえばさっき、なんで理央に抱きついてたんだよ?」
「あ、いや。それは……」
バツが悪そうに目を逸らす和兄に、今度は那央が足音を立てながら大股で向かっていくと、和兄の制服のネクタイを掴んで、顔を思いっきり近づけさせた。
「いい度胸じゃねーか? オレのこと、好き放題したくせに」