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第97話 俺と同じ力で抱き締め返してくれて……

(やっと寝てくれた……)


 双子の部屋に置かれた、シングルサイズを二つくっつけてあるベットの上で、玲央と真央が静かに寝息を立て始めたのを確認して、俺は手に持っていた絵本を閉じた。


 いつもなら、絵本を一冊読んでいるうちに双子はぐっすりと夢の中なのだが、今日は中々手強かった。


 それは、いくら遊び疲れていたといっても、双子の隣に瑛斗先輩がいたからだろう。


 おかげで、絵本を三冊も読む羽目になった。


(さてと……。よしっ)


 瑛斗先輩といよいよ話すときが来たと、俺は自分に気合いを入れると、双子と川の字で横になっていた身体を起き上がらせた。


(あ、あれ……?)


 上体を起き上がらせて、玲央と真央を挟んだ向こう側で横になっている瑛斗先輩を見ると、瞼は閉じたままだった。


(ね、寝ちゃってる……?)


 しばらくそのまま、俺は動かないで瑛斗先輩を見つめていたが、瑛斗先輩の瞼は閉じたままだった。


(嘘だろ……)


 気合いを入れて起き上がったにも関わらず、出鼻をくじかれてしまった俺は、力の入っていた肩を竦ませて、ゆっくりと息を吐き出した。


(どうしたものか……)


 これからどうしようかと考えつつ、俺はとりあえず三人とも起こさないよう、呼吸を押さえながらベットから抜け出すと、瑛斗先輩の傍へ向かった。


(本当に寝ちゃってる……。しかも、ぐっすりと……)


 自分の肘を枕代わりにして、双子の方を向きながら横になっている瑛斗先輩は、俺がベット脇に立っても気付かないほど深く眠っていた。


 俺は迷いつつ、フローリングの床に膝をついて正座をすると、マットレスの上で肘をついて顎を乗せた。


 そして、そのまま俺は目を閉じて耳を傾けると、双子と同じリズムで瑛斗先輩も静かな寝息を立てているのが聴こえてきた。


 そんな、心地良い呼吸のリズムを聴きながら目を開けると、制服のブレザーを脱いでワイシャツ姿の瑛斗先輩の背中を、俺はそっと見つめた。


(あの、広い背中に腕を回して……)


 ライブ会場の非常階段で、俺から抱きついた感触をふいに思い出すと、心臓の鼓動が自然と速まるのを感じた。


(あのとき、瑛斗先輩は……俺と同じ力で抱き締め返してくれて……)


 俺は無意識に瑛斗先輩に向かって手を伸ばすと、瑛斗先輩の金色の髪へ指先を触れさせた。


「んっ……」


 俺が髪に触れた微かな感触を感じとったのか、吐息を漏らした瑛斗先輩は寝返りを打つと、整った顔がふいにこっちを向いた。


 俺は慌てて手を引っ込めると、今まで寝ていたのが嘘のようにパッと碧い瞳が開いた瑛斗先輩と俺は、至近距離で目が合ってしまった。

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