「大丈夫ですよ。本当にただの寝不足ですし。テストも近くて、ライブの出番も増えたりで……。ちょっと、無理をしました。反省……しないとですね。体調管理もプロの仕事のうちなのに……。こんなんだから……だから……」
(こんなふうに、たどたどしく話して……。駄目で弱い部分を曝け出すから、きっと俺のこと……瑛斗先輩は呆れたんだ……。俺だけじゃなくて、リオンのことも……)
そんな考えが頭の中を過ると、俺は息が詰まるのを感じた。
(俺……)
泣きたくなる気持ちが込み上げてきて、抑えきれなくなった俺は、その場から逃げるように立ち上がった。
「こ、コーヒーでも淹れますね! うん、そうしましょう! 瑛斗先輩、ちょっと待って……て……」
詰まりそうになる喉から必死に声を出しながら立ち上がって、俺は急ぎ足で瑛斗先輩の前をすり抜けようとした瞬間、瑛斗先輩に手首を掴まれてしまった。
「え、瑛斗先輩……。は、離して……」
俺は瑛斗先輩の顔を見ることができないまま、首を必死に横へ振った。
だが、俺の手首を掴む瑛斗先輩の手は緩むどころか、逃がさないと言っているかのように強く力が込められた。
「理央……。言いたいことがあれば、ちゃんと私に話して欲しい」
「い、いやです……。だって……話したらまた……」
(駄目だ。こんなこと言っちゃ……)
呆れられて嫌われると思った瞬間、また涙が込み上げそうになって、俺は咄嗟に天井を仰いだ。
「理央……」
「ち、違うんです。これは目にゴミが入ったからで……泣いているとか、そういうんじゃないんで……だから……」
瑛斗先輩に悟られまいと、必死に声を押し出そうとするが、今度はそれでも声が震えて掠れてしまい、俺はそれ以上何も言えなくなって唇を噛み締めた。
「理央……!」
瑛斗先輩は俺の名前を叫ぶように口にして立ち上がると、俺を後ろから抱き締めてきた。
「瑛斗せん……ぱい……」
「理央ッ……」
「……!」
強く抱き締められながら耳元で名前を呼ばれると、自分が瑛斗先輩にとって、唯一無二の存在なのではないかと、思わず錯覚してしまいそうになる。
(どうして……。なんで抱き締めるんですか……? いらないなら、優しくしないで……)
虚しさで胸が締め付けられて、頭の中が真っ白になってしまった俺は、ずっと瑛斗先輩へ聞きたかったことを、無意識のまま口にしていた。
「瑛斗先輩は俺のこと……嫌いになったんですか……?」
「何をバカな! そんなわけ、あるはずないだろ!」
俺の質問を真っ向から否定するように、俺を抱き締める瑛斗先輩の腕に力が込めたのを感じたが、俺は信じられないと首を何度も横に振った。
「だって、あの日から……。ハイタッチしなくなったし……。俺のこと、明らかに避けてますよね……? 俺、わけがわからなくて……どうしたらいいか……もう……」
胸の奥に押し込んでいた気持ちを全部吐き出すと、気持ちと一緒に涙がそっと一筋、頬をつたって零れ落ちた。