「……っ」
泣いたって何も解決しないと俺は自分に言い聞かせ、これ以上涙が零れないよう、天井を睨みつけながら唇を噛みしめた。
「理央……。すまない……。やはり、私は理央を傷つけて……」
「違います! それに、俺が今欲しいのはそんな言葉じゃありません! ただ、理由を知りたいんです。知らないままは、もう嫌です……。苦しいんです……。淋しいんです……。だから……」
俺のことを抱き締めている瑛斗先輩の腕を、俺は掴むように手を重ねた。
「お願いですから……。俺に、ちゃんと教えてください……。なんで、俺のこと避けてるんですか……?」
「……」
本当は聞くのは怖かった。
けど、このまま瑛斗先輩との関係が終わってしまう方が、俺はもっと嫌だと思った。
だから必死に勇気を振り絞って瑛斗先輩に聞いているのに、それでも瑛斗先輩は黙ったままだった。
「瑛斗先輩っ!」
俺は我慢できずに瑛斗先輩の名前を叫ぶと、瑛斗先輩は観念したように少し腕の力を緩め、俺の肩に額を埋めるように押し付けてきた。
「リオンは……あんなに魅力的なのだから、みんなが惹かれるのは当たり前なんだ……。だから……間違っているのは私なんだ……」
まるで独り言のように呟いた瑛斗先輩の声が微かに震えているように感じて、俺はそっと首を横に振った。
「瑛斗先輩が間違っていることなんてないですよ。俺が保証します。瑛斗先輩が俺のことを保証してくれたように。だから……話してください」
「理央……」
俺の名前を口にした瑛斗先輩が、まるで存在を確かめるように、俺を抱き締める腕にまた力を込めたのを感じた。
そして、覚悟を決めたように瑛斗先輩は話し始めた。
「あの日のライブは……。みんながリオンへ夢中になっていた。ライブ中もハイタッチの列に並んでいるときも、何度もリオンの名前が聞こえてきた……。ファンとして、センターに向かおうとしているリオンのことを考えれば、私は喜ぶべきなのに……。私は……。楽しそうにリオンが私以外とハイタッチしているのが……見ていられなくなってしまったんだ……」
「それって……」
(ヤキモチ……?)
まさか瑛斗先輩がそんなことを思ったなんて考えもしなかった俺は、驚きと同時に、瑛斗先輩の気持ちがすんなりと分かった気がした。
「リオンをとられちゃった……気がしたんですね?」
俺の肩に額を押し付けたままの瑛斗先輩の頭へ、俺は寄りそうに頬を擦り寄せた。
すると、瑛斗先輩は甘えるように額を押し付けながら頷いた。