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第120話 最低だな、俺

「はぁー……。おいおい、そんな嬉しそうな顔すんなよ。俺が淋しくなるだろ」


「そ、そんな……。嬉しそうな顔なんてしてないよ。俺は別に……。ただ、久々に瑛斗先輩と話せるって思って……それだけで……」


 たったそれだけのことで、喜んでしまっている自分が恥ずかしくなってしまい、俺は和兄から顔を逸らしながらお弁当を食べ進めた。


「月宮先輩、ここ最近はノアと生徒会室でメシ食って一緒に過ごしてるらしいからなー。クラスで好奇な目で見られて、昼休みに教室いるのが怖いとか月宮先輩に相談したらしいけど、あれじゃあ逆効果なんじゃないのか?」


「えっ……? 教室にいるのが怖い? ノアが……?」


 ノアが転校してきてから数日、瑛斗先輩はノアに校内を案内して回っていたことは知っていた。


 だが、案内なんて二日もあれば終わるはずなのに、一週間も一体ノアと何をしているんだと思っていた。


 まさか、瑛斗先輩がノアからそんな相談を受けていたなんて、俺は予想もしていなかった。


(好奇な目で見られて怖い? あれって、怖がって逃げてるってことなのか? でも、怖がっているようにはとても……)


 クラスメイトと接するノアの姿は、俺の目には人見知りであることも嘘のように映っていたため、怖がっているようにはとても思えなかった。


(俺にはむしろ……。って、いや、人の心の内側は分からない。ああ見えて、本当は怖いと思っているのかもしれないし……)


 だが、ノアが生徒会室に出入りしているという話を聞いて、俺を三王子選へ勝手に推薦させたのもノアではないかという疑いが、一段と強くなってしまった。


(うーん……)


 胸のモヤモヤは増え続けるばかりで、俺は少し気持ちをすっきりさせようと、和兄にもらったパックのオレンジジュースに、ストローを刺した。


(瑛斗先輩は去年引っ越してきたって言っていたから、ノアは一年以上も瑛斗先輩と会っていないってことだよな。それなら、瑛斗先輩を独占して話したい事も、いっぱいあるんじゃないのかなっと思う……。けど……)


 たとえそうだったとしても、瑛斗先輩の優しさにつけこんで騙して、一緒に過ごしているのであれば、俺はノアの行動は許せないと思った。


(そういえば、ノアって瑛斗先輩の家庭事情を知ってるのかな……)


 ふと思いついたそんな疑問に、俺は自分の胸が酷く締め付けられたのを感じた。


 それは、瑛斗先輩が置かれている複雑な事情を思い出したのと同時に、自分だけが知っているわけじゃないと思ったら、自分は特別じゃないという淋しさを覚えたからだった。


(最低だな、俺。瑛斗先輩の家庭事情を知っているだけで、自分がノアよりも優位に立っているとか考えてる……)


 自分にこんな醜い感情があると再認識させられて、俺は心の中で溜め息をついてしまう。


 すると、俺の異変を和兄に気付かれてしまった。


「理央? どうしたんた? また顔が暗くなってるぞ」


「そ、そんなことないよ」


 俺は必死に首を横に振ると、雨脚がいつのまにか強まっていたみたいで、雨粒が屋上の地面を叩きつけるような音がしていることに気が付いた。

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