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第122話 あとで私を抱き締めてくれるか?

「なっ……」


 突然の俺の行動に、ノアはさらに驚いた様子だったが、その表情はすぐに変わって、俺のことを睨み返してきた。


「部外者は黙っててよ。これは僕とエイトとの問題だ」


「話したくても話せないって可能性を、なんで考えないんだよ? お前を困らせるってわかってるから、瑛斗先輩は話さないんだろ? そうやって自分の意見ばかり押し付けて、瑛斗先輩を苦しめんなよ!」


「なっ……!」


 ノアは一瞬ハッとした顔をしたが、唇を真一文字にして唇を噛みしめると肩を震わせた。


「う、うるさい! 僕とエイトの問題に口を出すな!」


 子どものように怒りだけをただ露わにするノアの姿を見て、俺は少しだけ冷静さを取り戻すと、これ以上このまま話していても無駄だと判断した。


「もういきましょ……瑛斗先輩」


 この場にいては瑛斗先生が傷つくだけだと思った俺は、瑛斗先輩の手を掴んで引っ張った。


「ま、待ってくれ。理央……」


 だが、瑛斗先輩はその場で足を踏ん張らせると、俺の引っ張る力に抵抗した。


「このまま逃げてばかりではいけないと思う……。だから……あとで私を抱き締めてくれるか?」


「抱き締めてって……。ば、バカじゃないですか! 一体、何言って……」


 急に飛び出してきた瑛斗先輩の発言を最初は理解できず、繰り返すことでなんとか理解した俺は、途端に胸の鼓動が速まるのを感じて、慌てふためいてしまう。


 だが、瑛斗先輩はそんな俺の姿を見て少しだけ口角を上げると、おでこへ愛おしそうに唇を落としてきた。


「エ、エイトッ……!」


「え、瑛斗先輩!」


 俺はおでこを慌てて隠すように手のひらで押さえると、顔に火が付いたように火照るのを感じるが、そんな俺の姿を瑛斗先輩は嬉しそうに見つめてきた。


(な、なんだよその顔! 反則だろ!)


 幸せをまるで噛みしめるように、目元を綻ばせて笑う瑛斗先輩の表情から俺は目が離せず、ただ心臓の音だけが加速しながら耳に響いた。

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