「なっ……」
突然の俺の行動に、ノアはさらに驚いた様子だったが、その表情はすぐに変わって、俺のことを睨み返してきた。
「部外者は黙っててよ。これは僕とエイトとの問題だ」
「話したくても話せないって可能性を、なんで考えないんだよ? お前を困らせるってわかってるから、瑛斗先輩は話さないんだろ? そうやって自分の意見ばかり押し付けて、瑛斗先輩を苦しめんなよ!」
「なっ……!」
ノアは一瞬ハッとした顔をしたが、唇を真一文字にして唇を噛みしめると肩を震わせた。
「う、うるさい! 僕とエイトの問題に口を出すな!」
子どものように怒りだけをただ露わにするノアの姿を見て、俺は少しだけ冷静さを取り戻すと、これ以上このまま話していても無駄だと判断した。
「もういきましょ……瑛斗先輩」
この場にいては瑛斗先生が傷つくだけだと思った俺は、瑛斗先輩の手を掴んで引っ張った。
「ま、待ってくれ。理央……」
だが、瑛斗先輩はその場で足を踏ん張らせると、俺の引っ張る力に抵抗した。
「このまま逃げてばかりではいけないと思う……。だから……あとで私を抱き締めてくれるか?」
「抱き締めてって……。ば、バカじゃないですか! 一体、何言って……」
急に飛び出してきた瑛斗先輩の発言を最初は理解できず、繰り返すことでなんとか理解した俺は、途端に胸の鼓動が速まるのを感じて、慌てふためいてしまう。
だが、瑛斗先輩はそんな俺の姿を見て少しだけ口角を上げると、おでこへ愛おしそうに唇を落としてきた。
「エ、エイトッ……!」
「え、瑛斗先輩!」
俺はおでこを慌てて隠すように手のひらで押さえると、顔に火が付いたように火照るのを感じるが、そんな俺の姿を瑛斗先輩は嬉しそうに見つめてきた。
(な、なんだよその顔! 反則だろ!)
幸せをまるで噛みしめるように、目元を綻ばせて笑う瑛斗先輩の表情から俺は目が離せず、ただ心臓の音だけが加速しながら耳に響いた。