「えっ……」
瑛斗先輩の口ぶりは冗談を言っているように思えず、俺の心臓の鼓動が途端に跳ね上がった。
俺は思わず瑛斗先輩から手を離して、顔を逸らしてしまう。
「あ、愛してるって……。そんな簡単に口にしないでくださいよ。俺だからいいものの、瑛斗先輩信者とか、女の子だったら勘違いしちゃいますよ?」
「勘違い……? 私は勘違いさせる気など、初めからないぞ」
「えっ……?」
(それって……)
「理央を愛しているんだ」
(愛してる……)
瑛斗先輩から何度聞いたかわからない言葉を、俺は頭の中で繰り返す。
そして、困るという気持ちよりも、嬉しいという気持ちが勝っていることに気が付いた俺は、どうしていいかわからなくなってしまう。
「や、やだなー。瑛斗先輩。また、和兄と張り合ってるんですか? 和兄のは冗談なんですから、本気にしちゃだめですって。あっはっは……」
思わず瑛斗先輩から離れようと、瑛斗先輩の胸を押して一歩後退ると、瑛斗先輩はまるで逃がさないと言うかのように、俺の手首を掴んだ。
「逃げないでくれ……」
「瑛斗先輩……」
掴まれた手首に力が込められると、瑛斗先輩が本気だと言っているように感じて、俺は思わず手を振りほどいてしまった。
「理央……」
「ご、ごめんなさい。その……」
怖かったわけでも、この場から逃げ出したかったわけでもない。
(瑛斗先輩のことは尊敬しているし、憧れている。けど……)
好きだとか愛しているだとか、これから瑛斗先輩と俺はどうなりたいのか、未だにわからない。
(でも、これだけはわかる……俺は……)
「瑛斗先輩……俺……」
「いいんだ、理央……」
「えっ……?」
「私は理央に、この気持ちを返してもらおうとは思っていない」
(えっ……?)
「もう予鈴が鳴るな。そろそろ教室に……」
(ま、また、この人は……!)
いつものように言いたいことだけを一方的に言って、自己完結して話をぶった切る瑛斗先輩に、俺はとうとう怒りを爆発させた。
「い、いいかげんにしてください! 瑛斗先輩のバカ!」
俺は瑛斗先輩を押し退けてドアの鍵を開けると、空き教室を勢いよく飛び出した。