目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第130話 俺もって言われたほうが嬉しいはずだろ!

 自分に大丈夫と言い聞かせつつ、俺は今なら、学校とアイドルのどちらを選ぶか、ふと考える。


(正直、学校は辞めても大検さえとれば、あとからでも大学は行ける。でも、那央や双子、家を守るためにも、やっぱりアイドルは続けていかないと……。それに、途中で投げ出して、俺を応援してくれる人を悲しませたくない)


 俺のイメージカラーであるオレンジが、観客席に増えてきたのを感じると、やっぱり応援されていると思って嬉しくなるし、頑張りたくなる。


 そして、ステージ上からついつい姿を探してしまう瑛斗先輩を、俺はリオンとして絶対に悲しませたくなかった。


(きっとリオンなら、あのときの瑛斗先輩を怒ったりはしなかったよな……。けど、俺は……)


 いつものように言いたいことだけを一方的に言って、俺の答えはいらないと自己完結して話をぶった切った瑛斗先輩を、俺はまだ許せていなかった。


(瑛斗先輩だって、俺もって言われたほうが嬉しいはずだろ! いや、俺もって言うかは、まだわからないけど……)


 学校やアイドルはどうしていこうかってすぐに決められるのに、なぜか瑛斗先輩のことだけは決められない。


 結局答えの出ていない気持ちに、俺は振付の確認を止めて、膝に手をついて上がった息を整えようとした。


(ん……? そういえば、結構時間が経ったような……)


 いつもより音量を上げて考え事をしながら踊っていたせいか、時間の感覚がなくなっていた俺は、床に置いていたスマホで時間を確認した。


「う、嘘! 予鈴鳴ったの気付かなかった! もう本鈴鳴ってんじゃん!」


 予鈴と本鈴、どちらも鳴ったことに全く気付かなかった俺は、床に置いていた弁当袋を掴むと、慌てて教室へ向かって走り出した。


「すみません! 遅れました!」


 そう叫びながら慌てて駆け込んだ自分の教室には、教師はおろか、クラスメイトされ誰もいなかった。


「あ、あれ……? 今日って移動教室だったっけ……?」


 俺は次の授業は英語だったと記憶していたが、時間割を確認しようと自分の席に向かうと、机の上にメモ用紙が置かれていた。


「化学実験室……。えー……移動になったのかよ。しかも、特別教室棟の最上階って、ここから一番離れてるじゃん……」


 誰かが親切に書き置きをしてくれたメモを見て溜め息をつくと、俺は手に持っていた弁当袋を机に置いた。


 そして、机の中から英語の教科書など一式取り出すと、メモを教科書の上に重ねて教室から走り出した。




(やられた……)


 大急ぎで向かった化学実験室は、ドアを開けようとするも鍵がかけられたままで、室内の電気も点いていなかった。


 メモに書かれていたのは嘘の移動教室先だと、誰もいない化学実験室に到着して初めて気付いた俺は、その場にしゃがみこんで途方に暮れた。


 だが、俺はすぐに立ち上がって、足を一階にある職員室へと向けた。


(しかたない。職員室で移動教室先を聞いて確認するか……。あー! くそっ!)


 一番教室から離れた化学実験室へと誘導されたことにもムカついたが、こんな嘘に引っかかってしまった自分自身に一番腹が立った。


(ここ五階だぞ。職員室は一階って鬼か……。痛ッ……)


 苛立ちながら階段を下りている途中、俺は胃を絞られるような痛みを感じて、思わず足を止めた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?