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第131話 あれ? この姿、どこかで……

(あ、あれ? 治まった……。食後に動きすぎたかなー……)


 ワイシャツの上から胃のあたりを軽く擦ってみるが、痛みや違和感は消えてなくなっていた。


 俺は胃痛が治まったことに安堵の溜め息をつくと、今更急いでもしょうがないと諦めて、体を労わるようにゆっくりと、階段を下りることにした。


(しっかし、随分と幼稚で悪質な嫌がらせだな。無視されたほうが疲れないし、何倍もマシだっつーの)


 犯人は十中八九、うちのクラスの誰かだろうが、今まで特にこんな嫌がらせも起きなかったことを考えると、今日の出来事が原因としか思えなかった。


(原因があるとすれば、中間テストの結果か……)


 月宮学園は古くからある男子校のせいか、今をときめく個人情報なんて言葉は無視して、中間テストの結果を、名前と点数付きで廊下に貼り出したのだ。


 上位者だけとはいえ、そんなことが行われるなんて、高校から外部入学の俺は知る由もなく、結果の貼り出しを見た時には正直まずいと思った。


 特待生の推薦枠で入学した俺の成績がどの程度なのか、正直誰も知らないし、気にしてもいないはずだった。


 だが、俺は瑛斗先輩と和兄の協力のおかげで、予想通りほぼ満点で学年一位に名前を飾ってしまっていた。


 そのため、地味で目立たず過ごしてきた俺に対する目が、一気に変わってしまった結果が、きっとこの嫌がらせだろう。


(私立のこの学園にいるってことは、そこそこお金持ちだろうし……。進学校に通っているっていうプライドもあるんだろうな。それが、こんな地味な俺に負けたとなると、面白くないってところか……)


 テストの結果は来年の特待生維持のために偽ることはできないと思っていたが、結果が貼り出されるのは予想外で、これまでの地味に過ごしてきた努力が無駄になってしまったと頭を抱えたくなった。


 目立たず、でも陰湿な存在にならないよう、バランスよく過ごしていたつもりだったが、それも意味がなくなってしまった。


(まあ、勉強しか取り柄のないキャラだって分かれば、そのうち興味もなくなって、無視ぐらいに治まるだろう)


 そう自分へ気丈に言い聞かせるが、こんなあからさまな嫌がらせを受けたことがなかったので、さすがの俺も気持ちが落ち込んで足を止めた。


「はぁ……」


 無意識で漏れ出してしまった溜め息に、俺は重たい気持ちを振り払うように首を横に振ると、階段の途中でしゃがみこんだ。


(あー、もう! ダメだ、ダメ。こんな気持ちになること自体が、相手の思う壺だ!)


「よしっ!」


 ガッツポーズをして自分に気合いを入れて立ち上がろうしたとき、急に後ろから階段を駆け下りてくる足音が聞こえた。


(ん? 今って授業中だよな? 一体誰が……)


「理央ッ! 大丈夫か?」


「え、瑛斗先輩……!」


 俺はしゃがみこんだまま慌てて振り向くと、そこには肩で息をしている瑛斗先輩がいた。


(あれ? この姿、どこかで……。そうだ……)


 初めて瑛斗先輩に脅されたあの日の放課後、自転車がパンクして困っていた俺を見つけて、わざわざ遠くから走って駆けつけてくれた瑛斗先輩の姿を思い出した。


(まさか、まさかだよね……)


 また俺のことを心配して助けに来てくれたのではと期待で胸が膨らむが、俺は自意識過剰にもほどがあると、必死に平静を装うとした。


 だが、そんな俺に向かって、瑛斗先輩は血相を変えて走り寄ってきた。

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