「よっと!」
保健室に到着したのか、足を止めた和兄は一旦俺を抱え直すと、どうやら保健室のドアを足で開けたみたいだった。
「先生は……。なんだ、いないのか」
いつもは暇そうに座ってコーヒーばかり飲んでいる保健医は、タイミングが悪かったのか、席を外していたようだった。
「じゃあ、とりあえず……」
(とりあえず?)
顔を隠すため、和兄のジャージの上着を頭から覆い被せられていた俺には、和兄がこれから何をしようとしているのか全く分からなかった。
だが、見渡すような仕草から、どうやら俺を下ろす場所を探しているように思えた。
すると、なにか見つけたのか、和兄は俺を抱き抱えたままどこかに向かって歩き出した。
向かった先はベッドだったらしく、和兄は俺のことを優しくベッドの縁に座らせてくれた。
「ふー……。和兄、ありがとうね」
頭から被せてもらっていた和兄のジャージをとると、カーテンを閉めて戻ってきた和兄と目が合ったので、俺は笑顔を向けた。
だが、俺と違って和兄は、心配そうな表情を浮かべていた。
「足、どうだ? さっきより痛くなってたりしないか? 運んでくる振動で痛かっただろ?」
「ううん、大丈夫だったよ。和兄がしっかり足首を固定してくれたから、響いたりしなかったし。むしろ、ちょっと痛みは落ち着いたくらい。はい、ジャージありがとう」
「そっか……。それならよかった」
和兄は不安が払拭できたように安堵の笑みを浮かべると、俺からジャージを受け取って、半袖の体操着の上から羽織った。
「理央、ちょっと我慢な。痛かったら、ちゃんと言うんだぞ」
ジャージを被っていたことで乱れた俺の髪を和兄は手櫛で直すと、そのまま俺の頭を軽く撫で始めた。
(和兄……?)
まるで愛おしいものを愛でる時のように、今まで見たことのない綻んだ笑顔を和兄に向けられて、俺は少しドキッとしてしまう。
(やっぱ、和兄も三王子なんだよね。昔から見慣れているせいか、変に慣れを感じちゃうけど、やっぱりイケメンなんだよなー)
そんなことを考えながら、和兄の整った顔を見つめていると、和兄は静かにベッド脇の床に膝をつき、俺が痛めた右足首にそっと手を添えた。
「和兄……?」
何をしようとしているのかわからず、俺は首を傾げる。
すると、和兄は俺の足首を動かさないように支えてくれながら、右足に履いていた上履きと靴下を脱がせてくれた。
そして、右足を和兄の膝の上に置いたあと、今度は左足の上履きも同じように脱がせてくれた。
「なんだか、シンデレラにガラスの靴を履かせているときみたいだね。いや、脱がされているんだから、正確には違うんだけどさ。でも、和兄が王子様に見えてくるよ」
「……。王子様……か。それって、月宮先輩みたいにか?」
「えっ……? なんで瑛斗先輩? 和兄は和兄で……」
言いかけてやめてしまったのは、俺を見上げてくる和兄の目がなぜか真剣だったからだ。