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第138話 王子様……か。それって、月宮先輩みたいにか?

「よっと!」


 保健室に到着したのか、足を止めた和兄は一旦俺を抱え直すと、どうやら保健室のドアを足で開けたみたいだった。


「先生は……。なんだ、いないのか」


 いつもは暇そうに座ってコーヒーばかり飲んでいる保健医は、タイミングが悪かったのか、席を外していたようだった。


「じゃあ、とりあえず……」


(とりあえず?)


 顔を隠すため、和兄のジャージの上着を頭から覆い被せられていた俺には、和兄がこれから何をしようとしているのか全く分からなかった。


 だが、見渡すような仕草から、どうやら俺を下ろす場所を探しているように思えた。


 すると、なにか見つけたのか、和兄は俺を抱き抱えたままどこかに向かって歩き出した。


 向かった先はベッドだったらしく、和兄は俺のことを優しくベッドの縁に座らせてくれた。


「ふー……。和兄、ありがとうね」


 頭から被せてもらっていた和兄のジャージをとると、カーテンを閉めて戻ってきた和兄と目が合ったので、俺は笑顔を向けた。


 だが、俺と違って和兄は、心配そうな表情を浮かべていた。


「足、どうだ? さっきより痛くなってたりしないか? 運んでくる振動で痛かっただろ?」


「ううん、大丈夫だったよ。和兄がしっかり足首を固定してくれたから、響いたりしなかったし。むしろ、ちょっと痛みは落ち着いたくらい。はい、ジャージありがとう」


「そっか……。それならよかった」


 和兄は不安が払拭できたように安堵の笑みを浮かべると、俺からジャージを受け取って、半袖の体操着の上から羽織った。


「理央、ちょっと我慢な。痛かったら、ちゃんと言うんだぞ」


 ジャージを被っていたことで乱れた俺の髪を和兄は手櫛で直すと、そのまま俺の頭を軽く撫で始めた。


(和兄……?)


 まるで愛おしいものを愛でる時のように、今まで見たことのない綻んだ笑顔を和兄に向けられて、俺は少しドキッとしてしまう。


(やっぱ、和兄も三王子なんだよね。昔から見慣れているせいか、変に慣れを感じちゃうけど、やっぱりイケメンなんだよなー)


 そんなことを考えながら、和兄の整った顔を見つめていると、和兄は静かにベッド脇の床に膝をつき、俺が痛めた右足首にそっと手を添えた。


「和兄……?」


 何をしようとしているのかわからず、俺は首を傾げる。


 すると、和兄は俺の足首を動かさないように支えてくれながら、右足に履いていた上履きと靴下を脱がせてくれた。


 そして、右足を和兄の膝の上に置いたあと、今度は左足の上履きも同じように脱がせてくれた。


「なんだか、シンデレラにガラスの靴を履かせているときみたいだね。いや、脱がされているんだから、正確には違うんだけどさ。でも、和兄が王子様に見えてくるよ」


「……。王子様……か。それって、月宮先輩みたいにか?」


「えっ……? なんで瑛斗先輩? 和兄は和兄で……」


 言いかけてやめてしまったのは、俺を見上げてくる和兄の目がなぜか真剣だったからだ。

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