「お前たち。昨日、理央が足を踏み外したのは偶然だったかもしれないが、逃げ出したことと、理央に嫌がらせをしていたことには変わりないだろ?」
「和兄!」
(あーもう! だから言いたくなかったのに!)
俺は和兄を睨みつけると、和兄は納得いかないといった様子で腕を組み、首を横に振った。
「いいか、理央。この際だからはっきりさせよう。で? どうなんだ?」
「それは……」
「理央に恨みがあるのか? それとも……誰かに言われてやってたのか?」
「……」
二人は顔を見合わせると、唇を噛みしめて顔を俯かせた。
(もう、こうなったらしょうがないか……)
諦めと同時に覚悟を決めた俺は、息を吸い込んでから、俯く二人を見上げた。
「相澤……ノア?」
ノアの名前に二人は同時に肩をビクつかせたが、そのあとまた互いに顔を見合わせると、今度は静かに頷いた。
(やっぱり……か)
「ノアって……。おいおい、マジかよ……」
和兄は予想もしていなかったんだろう。
驚きの声とともに深い溜め息をつくと、口元を手で覆った。
「クラスで、海棠が中間テスト一位って話が話題になったんだ。そしたらノアが……。海棠は、月宮先輩と波多野先輩にクラスで苛められてるって嘘ついて、取り入ってるって。成績トップだから、オレたち見下してるって……」
「あと、月宮先輩を追いかけてきたノアを邪魔者扱いして、嫌がらせしてくるって……。それ聞いてオレたち、ムカついて……」
まさか和兄もノアが俺に対してそこまで悪意をもっているなんて、思ってもみなかったからだろう。
「ノアのやつ……」
静かに和兄はノアの名前を呟いたが、手で口元を隠したままで俯き、動揺が隠しきれていなかった。
「和兄……波多野先輩は子どものときから知り合いなんだ。月宮先輩とは偶然知り合っただけで、苛められてるって嘘ついて仲良くなったわけじゃない。まあ、こんなこと言って信じてもらえるかわからないけど……」
「信じる! 信じるよ!」
「えっ……」
クラスメイトから興奮気味に言われ、俺は思わず嬉しくなり、胸が熱くなって鼓動が速まった。
「ここへ来る前に、波多野先輩から聞いたんだ。海棠は、俺たちがバスケ部だって知って、大会に出られなくなるかもしれないってことばっかり気にしていたって。それ聞いてオレたち……」
「そっか……。そっか……」
信じてもらえた嬉しさで、俺は胸が締め付けられて涙が込み上げそうになるが、必死に二人へ笑いかけた。
「二人が信じてくれたなら、それで十分だよ。ありがとう」
「……!」
俺の笑みに罪悪感を感じてしまったのか、二人はまた俺に向かって頭を下げてきた。
「本当にごめんな!」
「ごめん!」
「だから、大丈夫だって。ほら、頭を上げて! それより、教えて欲しいんだ。さっきの開会式のとき、クラスのみんな、様子が変じゃなかった? もし、俺が昨日車椅子姿を見せたことでショックを与えてしまったことが原因なら、ちゃんと謝りたいんだけど……」
俺の質問に二人は頭を上げると、言いにくそうな複雑な表情を浮かべていた。